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民主党は、労組から自律した、経済成長を肯定し、革新的で、寛容な政党の道を歩むことができるか

西田亮介社会学者・東京工業大学准教授

18日投開票の民主党代表選が、後半戦を迎えている。中盤以後、ネットでの討論会や若者を対象とした対話集会を開くなど、3候補者の協調路線も目にするようになった。

民主党代表選:ネット討論会 聞かれればお互い持ち上げる- 毎日新聞

http://senkyo.mainichi.jp/news/20150113k0000m010095000c.html

「民主党代表選候補者と若者たちの対話集会」を開催

http://blogos.com/outline/103386/

代表選が民主党内部のゲームでありながら、民主党中心に関心が集まる多くの民主党関係者にとって貴重な機会であることを意識するならば、当然ともいえる。他方で、代表選告示の際にも拙稿で懸念したように、3候補の理念と主張が、総体として一瞥可能な水準での差別化が難しく、またコンセプトとしてパッケージングされていないこともあって、メディアも(そして、民主党自身も?)報道の素材に事欠き始めたように見える。後半戦は、民主党の代表選の非有権者である一般的な国民は、どこに注目すれば良いのだろうか。

そんな中、時事通信が、昨日、民主党の重要な支持母体である労組の動向について、わかりやすい解説記事を上げていた。

時事ドットコム:労組票、3候補に分散=決選投票の見方-民主代表選

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201501/2015011300904&g=pol

よく知られているが、民主党は労組を重要な支持団体としている。自民党が、医師会や各種業界団体など経済団体を支持団体としていることと対して考えるとわかりやすい。大まかには、経済団体が雇用主の利益を重視し、労組は被雇用者の利害を重視するという意味である。ただし、日本の場合、企業別組合が強い力をもっているという特殊事情がある。その企業別組合と企業の関係を考えるなら、必ずしも厳しい緊張関係にあるとはいえない。昨今の労組の加入率低迷や、非正規職の増加を考慮すると、やはり(企業別の)労組が被雇用者全体の立場を代弁しているとは言い難いものがある。

とはいえ、政策で見ると、今回の代表選で出てきたLGBTの権利擁護といった論点は、一見マイナーだが、寛容性や多様性の擁護という点で注目すべきで、そして、民主党の結党理念にも遡ることができる論点でもある。こうした寛容性を擁護する政策を、従来同様「リベラル」と標榜するかはさておくとして、しっかり提示していくことは、政権と対照的な、言い方を変えると、際立った特色となりうるものでもある。

なお、なぜ、従来「リベラル」と思われてきた政策を「リベラル」と標榜することに懸念するかというと、日本で「リベラル」というとき経済成長との相性があまり良くない印象があるからである。事実、「リベラル」とされる論者が、縮小経済や定常経済論(?)を展開してきたという事情もある。

しかし、こうした議論は、「失われた20年」のあいだに不景気の影響を痛切に感じてきたであろう多くの一般有権者の感覚とは整合的ではない。共感も、支持も集めないだろう。過去の新聞社等の世論調査でも、年金や医療介護といった生活に密着した主題と並んで、景気や雇用を重視するという結果が繰り返し提示されている。

衆院選中盤情勢:「年金・医療・介護」重視…本社調査- 毎日新聞

http://senkyo.mainichi.jp/news/20141208k0000m010107000c.html

個別政策としては先のような寛容性を擁護するような政策は肯定できても、直接「リベラル」と標榜してしまうことで、経済成長や景気を重視し従来の「リベラル」という語感が印象付けるイメージと距離を置きたいような有権者には意図せず忌避されてしまう懸念がある。

言い換えると、経済成長と、その具体的な方法、また金融緩和の是非と経済政策について、より積極的に主張すべきという議論と表裏一体である。現政権の看板である「アベノミクス」が経済政策のパッケージである以上、経済成長とその道筋について提示できないようでは、昨今の有権者の関心を惹きつけることは困難だろう。厳しい風向きのなかで明示的な支持団体である労組の顔色ばかりを伺っているようでは、その他の――とくに小選挙区制導入以後、選挙に大きな影響を与えるようになった無党派層の――有権者の共感や支持は得られまい。

民主党が、そして民主党の次の代表が、経済成長を肯定し、革新的で、寛容な政党に変貌できる道筋を具体的に提示できるなら、もう一度、その可能性を見てみたいと思う一般有権者は意外と存在するのではないか。少なくとも、筆者はその1人である。

社会学者・東京工業大学准教授

博士(政策・メディア)。専門は公共政策、社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授等を経て、2015年9月東工大に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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