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地方創生の評価可能性――マジックワードとしての「活性化」

西田亮介社会学者・東京工業大学准教授

地方創生と地域活性化が話題になって久しい。だが、そこで議論される活性化とは結局何を指しているのだろうか。未だによく分からない。

3月前半にある学会の地方都市で開催されたパネルディスカッションで、地方都市の首長、図書館イノベーションが話題の企業担当者、超小規模自治体が設けた「新しい発想」で作られたという公営塾の担当者、Uターンで開業した商店主らと同席する機会があった。

そこでの議論の中心は「地方には、地方の良さや可能性がある」「地方の強みは多様性である」「アウトカムでは計測できない良さがある」といったものだった。

こうした議論は、ある種の情緒を刺激することは理解できるものの、結局中身がよく分からないと以前から思っている(たとえば、2008年に書いた書籍収録論文や、2012年に書いた書籍収録論文等にも。他にも、宇野常寛さんらの『PLANETS増刊号 ゼロ年代のすべて』にも郊外論を書いたことがあるが、同書は絶版になっている模様)。

まず「地方には、地方の良さがある」というのは、トートロジーである。人を説得するロジックと、具体的な言明が必須だろう。「地方における多様性」という議論は、少なくとも消費財の選択肢とその立地密度いう点で都市の方が圧倒的に優れている。巨大なモールを均質さの象徴として(「ファスト風土」!)批判する向きもあるが、地方にいながら、従来都市に行かないと手に入れなかった商品やサービスを手に入れられるようになるという意味では、選択肢の多様化と住民の「消費の民主化」に貢献している(詳細は前掲2012年論文)。

「アウトカムとして計測できない良さがある」論は、まずその「アウトカムで計測できない良さ」なるものが、そもそも「アウトカムで計測できる指標の良し悪し」よりも重要であることを提示しない限り、少なくとも論理的には説得的ではない。

結局、地域活性化という言葉の語感が、どこか単純な経済の活性化でもなく、素朴なハコモノや公共事業の誘致でもなく、単純な人口増でもないという、否定形でしか語ることのできない過剰に理想主義的な魔術を想起させてしまうところが危なっかしい。

たとえば、先のパネルでは企業担当者と、町営塾の担当者は、東京生まれ育ちの人間だった。「仕事」ではじめて地方にやってきた人物だが、そこに東京にはない何かを過剰に重ねあわせている可能性は否定できない。彼らが地方に見出している「地方の魅力」なるものが、地方生まれ育ち、大学から10年以上東京で仕事をして、再び地方でも仕事をしている身からすると、あまり共感できないものだった。

それに対して、首長と、Uターンで開業した商店主の発言はクリアだった。前者は、地方の自律といっても結局、補助金が存在する以上、それをとりにいくのが正直効率が良いという話、後者は、彼自身が実際に地元で商売し、雇用に貢献していることを述べたのである。前者はむしろバラマキ型の地方創生行政のインセンティブ設計の失敗を(おそらくは図らずも)クリアに提示しており、後者は売上と雇用という意味において大変明確で、評価可能なものであった。

こうした過剰に理想主義的で、抽象的な地域活性化に対して、木下斉氏がクリアに警鐘を鳴らしている。

地方を滅ぼす「名ばかりコンサルタント」「パクリの再生計画」に自治体の未来はない | 地方創生のリアル- 東洋経済オンライン

http://toyokeizai.net/articles/-/62102

結局、明確な成功のゴールを定量的に設計できないか、あるいはアウトカムを忌避する傾向が、漫然とした「成功例」の模倣に結びつき、地方が自ら考え、試行錯誤する機会を奪っていると述べる。

何も経済的活性化が全てとは思わないが、一定程度成功/失敗が客観的に評価可能な、地方創生を目指してもらいたい。あるいは、ちょうど統一地方選挙の季節でもある。現在、自分が住んでいる活性化像はどのように作られているか、少々ネットを検索してみて、投票先を考えてみても良いのかもしれない。

社会学者・東京工業大学准教授

博士(政策・メディア)。専門は公共政策、社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授等を経て、2015年9月東工大に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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