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少年院法第18条と第40条

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

先日、『無業社会』の共著者工藤啓さん、井村良英さんらのお誘いで、赤城少年院のスタディツアーに参加した。最近研究とまでは到底いかないが、触法少年と社会復帰の問題に関心をもっていて、幾度か少年院や鑑別所への視察、意見交換の機会をいただいている。なぜこの問題に関心を持つのかということや、この分野の現状と「誤解」については、過去のエントリなども一読してほしい。

少年犯罪と社会復帰の「誤解」と「常識」をこえてーー茨城農芸学院再訪(西田亮介)- Y!ニュース

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20160720-00060185/

少年院と少年犯罪について(西田亮介)- Y!ニュース

http://bylines.news.yahoo.co.jp/ryosukenishida/20160229-00054904/

赤城少年院のスタディツアーでも教わったことが多いので、いずれまとめたいが、昨日(10月13日)に赤城少年院や茨城農芸学院を所管する東京矯正管区の皆さん方、それから支援に携わろうという民間事業者の皆さんと意見交換させて頂く機会があった。そこで少年院法の第18条と第40条について教えていただいたので、以下においてその理念と経緯などを簡単にご紹介したい。

ところで、そもそも少年院法の前提として、少年法は第1条で次のように定めている。

第一章 総則

(この法律の目的)

第一条  この法律は、少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする。

(少年、成人、保護者)

第二条  この法律で「少年」とは、二十歳に満たない者をいい、「成人」とは、満二十歳以上の者をいう。

2  この法律で「保護者」とは、少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者をいう。

出典:少年法第1条、同第2条

近年刑事処分の年齢引き下げも行われたが、少年法は、原則として少年の保護に重点を置いている。これは戦後、つまり1949年に少年法ができてからの基本的な考え方になっている。少年院法もこれをうけて、次のように在院者≒少年の改善更生と社会復帰を目的としている。

(目的)

第一条  この法律は、少年院の適正な管理運営を図るとともに、在院者の人権を尊重しつつ、その特性に応じた適切な矯正教育その他の在院者の健全な育成に資する処遇を行うことにより、在院者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを目的とする。

出典:少年院法第1条

さらに近年では、社会に開かれた処遇や矯正教育が政策目標になっている。2009年に発覚した広島少年院での暴行事件がきっかけとなって設置された「少年矯正を考える有識者会議」の提言と、同会議が2010年に公開した「少年矯正を考える有識者会議提言――社会に開かれ,信頼の輪に支えられる少年院・少年鑑別所へ」)がきっかけとされる。なお同報告書は日本の少年法、少年院法の基本的な理念と経緯、施策等を知ることができるので、一読をおすすめしたい。

元首席専門官に有罪判決 広島少年院暴行「矯正教育を逸脱」:日本経済新聞

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0102Z_R01C10A1CR0000/

処遇と矯正教育を社会に開くときの具体的な根拠となるのが、少年院法第18条と第40条である。そこには次の様に記されている。

(関係機関等に対する協力の求め等)

第十八条  少年院の長は、在院者の処遇を行うに当たり必要があると認めるときは、家庭裁判所、少年鑑別所、地方更生保護委員会又は保護観察所その他の関係行政機関、学校、病院、児童の福祉に関する機関、民間の篤志家その他の者に対し、協力を求めるものとする。

2  前項の協力をした者は、その協力を行うに当たって知り得た在院者に関する秘密を漏らしてはならない。

出典:少年院法第18条

(矯正教育の援助)

第四十条  少年院の長は、矯正教育の効果的な実施を図るため、その少年院の所在地を管轄する矯正管区の長の承認を得て、事業所の事業主、学校の長、学識経験のある者その他適当と認める者に委嘱して、矯正教育の援助を行わせることができる。

2  少年院の長は、在院者(刑法 (明治四十年法律第四十五号)第二十八条 、少年法第五十八条 又は国際受刑者移送法第二十二条 の規定により仮釈放を許すことができる期間を経過していない受刑在院者を除く。以下この条において同じ。)の円滑な社会復帰を図るため必要があると認める場合であって、その者の改善更生の状況その他の事情を考慮し、相当と認めるときは、少年院の職員の同行なしに、その在院者を少年院の外の場所に通わせて、前項の規定による援助として在院者に対する指導を行う者(次項及び第五項第四号において「嘱託指導者」という。)による指導を受けさせることができる。

3  在院者に前項の指導(以下「院外委嘱指導」という。)を受けさせる場合には、少年院の長は、法務省令で定めるところにより、当該嘱託指導者との間において、在院者が受ける院外委嘱指導の内容及び時間、在院者の安全及び衛生を確保するため必要な措置その他院外委嘱指導の実施に関し必要な事項について、取決めを行わなければならない。

4  少年院の長は、在院者に院外委嘱指導を受けさせる場合には、あらかじめ、その在院者が院外委嘱指導に関し遵守すべき事項(以下この条において「特別遵守事項」という。)を定め、これをその在院者に告知するものとする。

5  特別遵守事項は、次に掲げる事項を具体的に定めるものとする。

一  指定された経路及び方法により移動しなければならないこと。

二  指定された時刻までに少年院に帰着しなければならないこと。

三  正当な理由なく、院外委嘱指導を受ける場所以外の場所に立ち入ってはならないこと。

四  嘱託指導者による指導上の指示に従わなければならないこと。

五  正当な理由なく、犯罪性のある者その他接触することにより矯正教育の適切な実施に支障を生ずるおそれがある者と接触してはならないこと。

6  少年院の長は、院外委嘱指導を受ける在院者が第八十四条第一項に規定する遵守事項又は特別遵守事項を遵守しなかった場合その他院外委嘱指導を不適当とする事由があると認める場合には、これを中止することができる。

出典:少年院法第40条

処遇については個々の少年院、矯正教育については管轄の矯正管区の裁量で、官民協働のアプローチを採用することができるようになっている。先のエントリでも記したように、凶悪犯罪も含めて少年事件の件数は激減している一方で再犯率は概ね横ばいのままである。言い換えると、量的には現状の施策が効果をあげていることは疑い得ない一方で、さらに質的な改善、言い換えると個々の少年の状況、環境に応じたきめ細やかな処遇、矯正教育のあり方が求められている。

このとき、少年と彼ら彼女らの置かれた環境の多様性を念頭におくならば、必要な資源をすべて少年院のみで提供するということは困難といわざるをえない。そこでそれらが復帰先となる社会における多様なステイクホルダーとの官民協働によって提供されるというのはきわめて自然なかたちでもあるように思われる。これまで視察させていただいた限りにおいて控えめにいってみても、少年院で提供されているプログラムは重機の資格取得支援など伝統的なアプローチに限られており、また教育の機会という観点でも事実上かなりの制約を受けているように見える。それらが新たに提供されることで再犯防止策が充実するのであれば、それは社会にとってもまたメリットがあるといえる。

ただし現状、民間事業者による資源の提供は、この分野に根強く存在するある種の「誤解」やラベリングによって、言い換えるとコンプライアンスやブランドイメージを重視する昨今の企業社会の状況のなかで、暗黙の、しかしかなり強い制約を受けているようにも思われる。それでも前述のように、官民協働を通じた処遇や矯正教育のあり方を考えようという萌芽もある。その展開を期待をもって注視したい。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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