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「体罰」教員、懲戒免職0.08%の怪――「リンチでも,責任が問われない!」遺族たちの闘いが始まる

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
懲戒処分と訓告の件数は,「体罰」が突出しているのだが・・・

PTA費の着服はクビ、生徒12人への体罰は減給

学校教育の世界は、教師から生徒への身体的暴力(いわゆる「体罰」)に、目をつぶっている。

7月22日、兵庫県教育委員会は,公立校教諭4人の処分を発表した(神戸新聞NEXT 2014年7月22日付)。うち一人の中学校教諭は、PTA会計から46万円を着服したとして、懲戒免職処分を受けたという。

このニュースもそれなりに驚くべきことであるが、別の事実にこそ、目を向けなければならない。それは,残り3人の処分である。3人の教諭は「体罰」事案による処分であり、うち一人の高校教諭においては、12人の生徒の頭を叩き、2人には軽傷を負わせたにもかかわらず、減給10分の1(3カ月)にとどまっている。そして他の教諭2人の各事案も、戒告という軽い扱いであった。

「体罰」しても懲戒免職は0.08%

上記の例は、けっしてPTA費の着服額が多かったために、「体罰」事案との間に、処分の差が出たというわけではない。そもそも、学校教育の世界では、教師が振るう身体的な暴力は、大目に見られる傾向にある。

文部科学省は、毎年、公立校の教職員の処分状況に関する報告をおこなっている。インターネット上に公開されている2008~2012年度までの5年分の報告を整理したのが、図1と図2である。

図1は、懲戒免職(いわゆる「クビ」)の件数である。生徒の身体に触る等の「わいせつ」によって懲戒免職となったケースが524件と突出して多い。他方で、「体罰」による懲戒免職は、わずか3件である。じつはこの3件はすべて2012年度のものであり、それ以前は0件であった。そして、同じような暴力的行為であっても、学校外等で一般人に傷を負わせるような「傷害・暴行等」については、懲戒免職の扱いは90件に達する。

図1 懲戒免職の件数
図1 懲戒免職の件数

さらに注目しなければならないのは、図2である。懲戒処分(免職/停職/減給/戒告)と訓告を合わせた処分全体を見てみると、じつは「体罰」の件数は、3,783件と圧倒的に多い。つまり、教師が生徒に身体的暴力を振るったということが表面化し、何らかの処分が下されることになったとしても、教師は厳罰に処されることがないのである。その割合は、懲戒免職(3件)÷処分全体(3,783件)で、たったの0.08%である。「わいせつ」が61.7%、「飲酒運転」が50.5%、一般の「傷害・暴行等」が35.2%であることと比較しても、そのきわだった低さには、疑問を投げかけざるを得ない。

図2 処分全体(懲戒処分+訓告)の件数
図2 処分全体(懲戒処分+訓告)の件数

暴力的指導のなかでの死

暴力教師は、学校に守られている。なぜなら、教師が生徒に「体罰」を振るったとしても、そしてさらにそれが過酷なものであったとしても、暴力は指導の一環またはその行き過ぎのなかで生じたことと理解されるからである。暴力は、教育的な配慮のもとで起きたこと(起きてしまったこと)なのだから、大目に見てあげようというのである。

いま、こうした教育界の態度に対して、教師の暴力的指導により子どもを失った遺族たちが,声をあげ始めている。滋賀県愛荘町立秦荘中学校1年生の村川康嗣さんは、2009年夏、柔道部の練習中に、顧問に投げられて命を落とした。死亡するまでの過程は、「柔道」の名を借りたまさにリンチの場であった。

康嗣さんは喘息の症状があったため母親は日頃から顧問に特別な配慮を要請していたにもかかわらず、康嗣さんは連日、他の部員と同様に過酷なトレーニングをさせられていた。康嗣さんは、柔道にまったく不慣れな初心者であった。事故当時、顧問は気温30℃を超えるなかで、部員は3時間の練習を続け、無制限の乱取りへと突入した。最後26本目の乱取りで康嗣さん一人だけがフラフラの状態で取り残され、そこで顧問が最後に康嗣さんを投げて、康嗣さんは帰らぬ人となった。

「リンチでも,責任が問われない!」

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民事訴訟の一審において愛荘町の賠償責任は認められたものの、顧問個人の賠償責任は、二審においても「公権力の行使に当たる公共団体の公務員として、その職務を行う」(判決文)なかでの出来事であるとして、問われることはなかった。死亡事故は、教育的指導の一環のなかで起きたことだと、裁判所は判断したのである。

「学校では、リンチをして子どもが死んでも、教師の賠償責任は問われないんですか・・・」二審の判決後、康嗣さんの母親は声を震わせて、そう訴えた。教育界の誤った指導観を、裁判所もまた後押ししている。

康嗣さんの遺族はいま、もう一組の遺族とともに、暴力的教師の責任を問う活動を、民事訴訟というかたちで続けている。もう一組の遺族というのは、「剣太の会」で知られる、工藤剣太さんの遺族である。村川さんと同じ2009年の夏,大分県立竹田高校2年生、剣道部キャプテンの剣太さんは,部活動顧問の教師から暴行を受けながら、最後一人だけ残って練習を継続させられ、最後に熱中症で命を落とした。死に至る過程が、村川康嗣さんと重なってくる。

来る7月27日(日)、村川康嗣さんの遺族が工藤剣太さんの遺族らを招き、「体罰」容認の社会に異議を申し立てるシンポジウムを開催する(詳細はこちらをクリック)。暴力を容認する教育ムラと司法ムラに、遺族たちが闘いを挑む。

<教員の処分件数(図1・2)について>

現時点のデータとしては、懲戒処分(免職/停職/減給/戒告)と訓告の件数を知ることができる。「公費の不正執行等」では、2009・2010年度に複数地域で100~200名規模の大量処分事案があり、それら極端な値が反映されたものとなっている。同じく,「体罰」は2012年度に約2200件に急増したものの,それ以前は300~400件程度である。「交通事故」に関する処分は、省略している。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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