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部活動顧問の過重負担 声をあげた先生たち 「顧問拒否」から制度設計を考える

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
多忙の原因に「部活動」をあげた教員の割合[栃木県調査]

■「部活動」の地殻変動

長年、「あって当たり前」のこととして、とくに大きな話題にのぼることもなく存続してきた学校の「部活動」に、いま地殻変動が起きている。

昨日、NHKの「おはよう日本」では、特集「部活動の事故 どう安全を確保する」が放送された。重大事故の現状が示され、さらに、その背景には教員の負担感があるとの内容であった。

Yahoo!では「土日の部活動、どうすべき?」と題して、意識調査が開始された(3/20~4/10)。「部活動の顧問を務める教師の負担の大きさが問題になっています」と問題が提起されている。調査はいまも継続中である。

国政においても、動きが起きている。3/10に、衆議院の予算委員会第四分科会で井出庸生議員(維新の党)が、部活動の法制度上の位置づけに関連させて、顧問教員の負担感を訴えた。

■子どもの側の事故・暴力被害から教員側の過重負担まで

私がこれを「地殻変動」と呼ぶには訳がある。

2011年頃から、柔道部における重大事故(過去30年間で118件の死亡事故)の問題がクローズアップされ、2013年初頭には、大阪市立の高校でバスケットボール部のキャプテンが、顧問からの暴力の後に自殺するという事案が明らかになった。

生徒側の事故被害と暴力被害について議論の土台が固められてきたのが、2011年から今日までの流れである。そこに、2015年に入って、新たな課題が浮上してきた。それが、教員側における部活動顧問の多大な負担の問題である。

いまから2年前の2013年3月、公立中学校教員の真由子氏が、ブログ「公立中学校 部活動の顧問制度は絶対に違法だ!!」を立ち上げた。氏の問題意識は少しずつ拡がり、2014年末からは私もその流れに乗ってYahoo!ニュースに、「部活動の負担感が大きいワケ」など3本のエントリを投稿し、多くの反響を得た(詳細は本エントリ下部を参照)。

生徒側の事故・暴力被害に始まり,教員側の勤務問題にまで、まさにいま、部活動全体としてそのあり方が問われている。(なお、この機運に乗じて、私は昨日、ウェブサイト「部活動リスク研究所」を立ち上げたばかりである)

■顧問拒否の動き 「部活動はボランティア」

ちょうどこの3月というのは、人事異動のシーズンであり、教員にとっては来年度の部活動担当が気がかりな時期となる。

こうした状況のなか、若手の中学校教員が「部活動顧問拒否」の動きを起こしている。ツイッターやブログでは、異動の希望調査シートに「部活動顧問の担当を希望しない」と明記しようとの声かけがおこなわれている。

さらにそのときの管理職のリアクションに、どのように応じるべきかについても、積極的に意見が交換されている(たとえば,こちらのサイトを参照)。

じつは現在のところ、部活動は正規の教育課程には位置づけられていない。正規の課程外で、生徒が自主的に取り組むものが部活動である。したがって、教員は「ボランティア」でその面倒をみていることになる。「顧問を担当するか否かは私が決める」ということになる。

■増大する負担

多忙の原因に「部活動」をあげた教員の割合[栃木県] ※報告書をもとに筆者が作成
多忙の原因に「部活動」をあげた教員の割合[栃木県] ※報告書をもとに筆者が作成
教員が部活動に費やす日数[神奈川県] ※報告書をもとに筆者が作成
教員が部活動に費やす日数[神奈川県] ※報告書をもとに筆者が作成

ローカルな調査研究ではあるものの、栃木県教育委員会による調査(「教員の多忙感に関するアンケート」)からは、顧問の厳しい現実がみえてくる。調査では、「忙しい」と感じている教員に対して、個別指導、会議、学校行事、教材研究、保護者対応、部活動指導など22項目のうちどれが主な原因か(複数選択可)が尋ねられた。

すると、図にあるとおり中学校教員のうち66.7%が「部活動指導」を選んでいる。22項目のなかで突出した値である。しかも2008年度の調査と比較してみると、中学校では2008年度の時点でただでさえ大きかった「部活動指導」の負担感が、2011年度にはさらに増大している。

類似の結果は、調査年がやや古いものの、神奈川県教育委員会の調査(「中学校・高等学校生徒のスポーツ活動に関する調査報告書」)からも得られている。生徒調査の数値からは、中学校では、1998年から2007年にかけて部活動の指導日数が増加(「6日以上」の割合が高まっている)していることがわかる。

■制度設計の問題へ

顧問拒否の動きを単なる「わがまま」と捉えていては、何も改善されない。

そもそも「部活動はボランティア」であるにもかかわらず、ほぼ強制的に顧問を担当するという制度設計に無理がある。そしてさらにその上、現実には中学校教員のなかで負担が増大している可能性が大きい。

先生たちが声をあげるのも頷ける。若手の先生たちの動きをきっかけにして、部活動の全体像を根本的に見直していく必要がある。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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