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7日間で6試合 高校総体サッカー 猛暑のなかでの過密日程

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

■「夏の甲子園」だけではない過密日程

「夏の甲子園」が、8月6日から20日までの予定で開催されている。それに合わせて定番のように、熱中症や連投、連戦を問題視する声も多く聞かれるようになった。

ところで、この同じ猛暑のなか、同じような日程でインターハイ(全国高等学校総合体育大会)が、近畿地方で開催されている。甲子園の陰にすっかり隠れてしまっているが、各種競技において高校生が、全国一位を競って闘いを繰り広げている。

甲子園は高校運動部の象徴的存在であって、さまざまな問題が指摘されやすいが、じつのところ、他の競技種目においても類似の状況か、あるいはそれ以上に過酷な状況がある。この記事では、今日決勝戦を迎える「高校サッカー」について考えてみたい。

■サッカーは7日間で6試合

インターハイの屋外競技について、その開催日程を、特設サイトの情報をもとに、整理してみた。ざっと一覧してわかるように、どの競技ももっとも暑いこの季節に、おおよそ3日~7日間の日程で試合がおこなわれている。

2015インターハイ 屋外競技の日程一覧
2015インターハイ 屋外競技の日程一覧

サッカー(男子)は、8月3日から9日まで、7日間の日程が組まれている。

初日から順に、1回戦、2回戦、3回戦、休み、準々決勝、準決勝、決勝戦と、トーナメント戦が展開される。今日がその決勝戦の日だ。

決勝戦にたどり着いた2チームは、1回戦から出場の場合、7日間に6試合をこなすことになる。まさに、今日の決勝戦に出場する千葉県の市立船橋高校がそれである(東福岡高校は2回戦からの出場)。高校野球では、ピッチャー一人の「連投」が問題視されているが、高校サッカーでは,(スタメン)選手全員の「連戦」という過酷な事態が起きている。

一試合はやや短めの70分(35分ハーフ)とはいえ、7日間で6試合にもなれば、決勝の時点では身体に相当の負荷がかかっていると考えられる。

■「激しい運動は中止」期間の連戦

今年のインターハイのサッカー会場は、神戸市が拠点である。そこで神戸市のWBGTの値を、データが入手できる過去6年分(2009-2014)について調べてみた。WBGTとは熱中症の危険度を示す指標で、日本体育協会の指針では、WBGT値が31℃以上で「運動は原則中止」、28℃以上31℃未満で「厳重警戒(激しい運動は中止)」、25℃以上28℃未満で「警戒(積極的に休息)」とされる【注】。

サッカー試合会場(神戸市)のWBGT値[2009-2014]
サッカー試合会場(神戸市)のWBGT値[2009-2014]

図からわかるように、一年でもっともWBGTの値が高い期間中に、サッカーの大会が開催されている。「激しい運動は中止」にもかかわらず、そこに全国大会が設定されているのである。

■全国大会でこそ模範を示すべき

なお補足までに、サッカーと同じ7日間の日程が組まれているテニスでは、一日も休みなく、試合がおこなわれる(先ほどの日程一覧を参照)。しかも、シングルスとダブルスの同時開催であるため、選手によっては1日2試合が連日続くという強行日程である。

昨日は、男女シングルス決勝と、男子ダブルスは準決勝・決勝(準決勝は変則日程)、女子ダブルス決勝がおこなわれた。男子のほうで、シングルス決勝と、ダブルスの準決勝・決勝の計3試合に出場した選手がいる(詳しくはこちら)。

サッカーであれ、テニスであれ、さらには野球であっても、当の競技のもっとも重要な大会が、「厳重警戒(激しい運動は中止)」の期間中に、過密な日程で組まれている。はたしてこれで、練習の成果として、最高のパフォーマンスを示すことができるのだろうか。全国大会こそ、全競技者の模範となるべきものであるが、現実にはもっともあってはならない状況が繰り広げられているように思われる。

多くの高校生は、「教育の一環」である部活動の選手として、全国大会に参加している。「夏休み」に過酷な環境(しかもそれはパフォーマンスを低下させる)を用意することが、はたして「教育」なのだろうか。

現行日程の変更は、けっして容易ではないだろう。しかし、全国大会のあり方が変わらないことには、日本の子どもたちのスポーツ環境もまた変わることはない。「仕方がない」の一言で片付けるのではなく、少しでも子どもの負荷を減らすことができるよう、私たち大人は、知恵を絞らなければならない。

【注】

WBGTとは、黒球温度、湿球温度、乾球温度の3つをもとに算出される値で、この値を用いて日本体育協会がスポーツ活動の指針を出している。

環境省の熱中症予防情報サイトから、WBGTの計測地点である神戸市の値を拾い出し、データが確認できる過去6年分(2009-2014)について、当該日の最大値の平均値を算出し、グラフを作成した。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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