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10段の組体操 崩壊の瞬間と衝撃 ――2人の生徒 教師に抱えられて退場 ▽組体操リスク(13)

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
10段ピラミッド:中学生で高さ約7m、土台は1人に最大約200kgの負荷がかかる

■10段ピラミッド、崩壊の様子

この秋も、全国の学校で巨大組体操が繰り広げられている。

ヤフーニュースをはじめ多くのメディアで、巨大組体操の危険性に関する情報が発信されているなか、この秋の体育祭で人間ピラミッドの中学校最高タイ記録「10段」にチャレンジした公立中学校(関西地域※)がある。

そのチャレンジの様子(崩壊の瞬間を含む)が、YouTube上に動画で公開されている。

★★10/1現在、YouTubeの元動画は削除されているため、こちらのサイトを参照されたい。

1) YouTube(新たな投稿、ただし元の動画と同じもの):大中ピラミッド(大阪府八尾市立の中学校における組体操事故)

2) Yahoo!ニュース(日テレNEWS24):体育祭“10段ピラミッド”崩れ6人重軽傷

3) NHK NEWSWEB:組み体操で骨折 注意喚起

4) Spotlight:10段の人間ピラミッドに挑戦!衝撃的なフィナーレとその後の崩壊…(静止画像)

■一瞬で崩壊

立体型の10段ピラミッドを目指して、生身の生徒が下から徐々に上に積み重なっていく。10段を組み立てるには、少なくとも百数十名の生徒が必要である。高さはおよそ7メートル。土台の最大負荷量は、一人あたり200kg前後に達する。

頂点に向かう生徒の腰には、垂れ幕が付けられている。頂点から、幕を下に垂らすつもりだろう。巨大組体操で、ときおり見かけるパフォーマンスである。

9段目までは、比較的順調に積み上がっていった。だが、最後の10段目の生徒が頂点にたどり着くや、ピラミッドはゆがみ始める。頂点の生徒はなんとか立ち上がろうとするが、揺れが大きく立ち上がれない。その瞬間、10段のピラミッドは一気に崩れ落ちた。歓声は悲鳴に変わった。

■2人の生徒が教師に抱えられて…

10段ピラミッドを横から見た図(断面図)
10段ピラミッドを横から見た図(断面図)

崩壊後、生徒は外側から次々と立ち上がり、去っていく。そのなかで、すぐには動けない生徒が2人いた。

2人の生徒はそれぞれ、教師に両脇を抱えられるようなかたちで立ち上がり、うなだれながら、ゆっくりとその場を離れていった。拍手が鳴っていた。

具体的な負傷の部位や程度はわからないものの、少なくとも一人は右胸から脇のあたりを左手で押さて、右腕をフラフラさせながら、とても苦しそうな表情をしていた(追記:9/30~10/1の各種報道によると、6人が重軽傷(1人が骨折、5人が軽いケガ)とのこと)。

■周りに教員を配置しても効果なし

組体操は、学習指導要領に記載がない種目である。負傷事故は、小中高で年間8561件(2013年度)起きている。負傷部位は、他の競技種目と比べて、頭部や体幹部(とくに頸部と腰部)といった、身体の中心部分・重要部分が多い(詳しくは拙著『教育という病』第1章「巨大化する組体操」)。

わざわざやらなくてもよい種目で、事故が起きている。そして、それらの事実が明らかになった今日においても、多くの学校が巨大組体操を続行している。この秋も、ごく簡単に調べた限りで、中学校では8~10段、小学校では6~7段のピラミッドがいくつか確認できている。

先生たちは、「ピラミッドの周りに教員を配置して、安全を確保している」と決まり文句のように言う。しかしながら、どんなに先生を増やしても、巨大ピラミッドの重さは1グラムも軽くならない。

巨大組体操で、痛い思い、苦しい思いをするのは、先生たちではない。子どもたちだ。

【※】TwitterやYouTube、さらにはGoogle Earth の情報を照合して、判断した。学校名は匿名とした。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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