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部活「やりたくない」 先生の訴え

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
21.7%の教員が部活動指導に消極的である(愛知県高等学校教職員組合、2004)

■部活動の指導は義務ではない

「部活、やりたくない」――中学生や高校生の訴えかと思うかもしれないが、じつはいま日本の学校現場で、若手の先生を中心に部活動の顧問を「やりたくない」という声がわき起こっている。

「それは先生のワガママだ」と思う人もいるかもしれない。だが、ここで私たちが知らなければならないのは、部活動の指導は先生の義務ではないということだ[注1]。

そもそも部活動は、国語科や保健体育科のように学校教育で必ず扱うべきものではない。部活動とは、「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」(中学校ならびに高校の学習指導要領)ものであり、先生もそれを任意に指導するだけなのである。

しかし、任意であるはずの部活動指導が、教員に強制されている。平日の夕方と朝の時間が無給で奪われるだけでなく、土日祝日も当たり前のように出勤することが要請されている。「部活、やりたくない」という叫びの背後には、日本の学校教育が抱えている大きな矛盾が潜んでいる。

■1~2割が「やりたくない」

「部活、やりたくない」と思う先生は、どれくらいいるのか。こうした問いを含む調査はほとんど実施されていないものの、断片的ながらいくつかの調査から、現状が見えてくる。

愛知県高等学校教職員組合が2004年に実施した調査[注2]では、「あなたにとって部活動指導はどんな仕事ですか」という質問に対して、21.7%の教員が、運動部・文化部の指導を「できればやりたくない」「やりたくない」と回答している。なお、部活動指導の担当に関する質問では36.7%が「社会教育に移行すべき」すなわち、教員の手を離れた学校外のスポーツ少年団(略称「スポ少」)にゆだねるべきと答えている。

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また、愛知県高等学校体育連盟が2012年に東海4県の高校に勤務する運動部顧問を対象に実施した調査[注3]では、「あなたはこれからも現在の部活動の顧問を続けたいですか」という質問に対して、各県いずれも8~9%の教員が「やめたい」と答えている。

さらに、一般社団法人アスリートソサエティが2014年度に文部科学省の事業として、東京都江戸川区内の中学校に勤務の運動部顧問を対象とした調査[注4]では、「運動系部活動の指導に対し積極的にかかわりたいですか」という質問に、9%の教員が「できればかかわりたくない」「まったくかかわりたくない」と回答している。

■多数派にかき消される声

3つの調査それぞれにいくつかの限界があるものの、断片的に見えてくるのは、中学校や高校の教員の1~2割程度が、部活動(あるいは運動部活動)を「やりたくない」と感じているということだ。

「いや、もっと多いはずだ」と感じる現場の先生もいるかもしれない。仮にもっと多いとしても、それでも部活動を「やりたい」と思う多数派の規模には、及ばないだろう。「やりたくない」先生は少数派であり、だからこそ、部活動を自主的に担当したいと思う多数派教員の大きな声に、その存在がかき消されていると考えるべきである。今日の部活動は、少数派である先生たちの、犠牲の上に成り立っている。

■「やりたくない」の声に賛同集まる

イメージ【出典:写真素材 足成】
イメージ【出典:写真素材 足成】

今月15日、「ライブドアブログ OF THE YEAR 2015」が発表された。その「話題賞」に、若手の中学校教員である真由子先生のブログ「公立中学校 部活動の顧問制度は絶対に違法だ!!」が選出された。毎日新聞の社説や、衆議院の予算委員会でも取り上げられるほどに、関係者の間ではよく知られたブログである。

真由子先生の主張は「教員は『ボランティア』である部活動に、強制的に参加させられます」(2013年3月25日)という表現に集約されている。多くの中学校において「全員顧問制」というかたちで、任意であるはずの部活動指導が、先生に強制されている。それが、先生の負担を増大させ、授業準備にかける時間、生徒に向き合う時間を先生から奪っている。真由子先生は、部活動顧問を担当しないという選択肢が認められるべきと訴える。

先生だって、一人の労働者であり、人間である。制度上において任意の自主的な活動とされているものに、強制的に借り出される必要はない。

私たちは、教員をバッシングすることには慣れていても、先生を守るという発想にはなかなかたどり着かない。日本の教育をよくするためには、教員バッシングだけではまったく不十分だということに、私たちは気づくべきである。

  • 注1

厳密には、正規の勤務終了時刻(16:30頃)を終えた後の、勤務時間外におこなわれる部活動指導のことを指す。

  • 注2

2004年11月に、愛知県立高校のうち、抽出校26校では全教員を対象に、その他の高校については部活動の主顧問を対象に実施し、計1258名から回答を得ている(回収率は不明)。

  • 注3

2012年6~7月に、愛知・三重・岐阜・静岡県の東海地区高体連加盟校548校のうち430校(学校単位の回収率78.5%)の運動部活動顧問計5674名から回答を得ている。

  • 注4

2014年度に、江戸川区内の全中学校(33校)から5名ずつ運動部顧問を抽出し、計165名から回答を得ている。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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