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アメトーーク! 浅いプールの飛び込みに「危険すぎる」の声

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
初心者の飛び込み事故パタン(文部科学省『水泳指導の手引(三訂版)』131頁)

■「運動神経悪い芸人」が浅いプールに頭から突っ込む

昨年末の「アメトーーク!年末5時間SP」(テレビ朝日)において、「運動神経悪い芸人」が浅いプールに真っ逆さまに飛び込み、頭部を強打しかねない場面が放送された。

ツイッターをはじめウェブ上では、「ゾッとした」「危険すぎて笑えない」「死人が出る」などの声が続々とあがった。本記事では、その放送内容を手がかりにして、浅いプールに初心者が飛び込むことの危険性について考えてみたい。

■水深は1m弱か

拙稿「浅いプールで飛び込み練習 重大事故多発」(2016年9月28日)
拙稿「浅いプールで飛び込み練習 重大事故多発」(2016年9月28日)

放送があったのは12月30日。5時間の特番のなかで「運動神経悪い芸人」が実際にスポーツをするという企画である。そのスポーツの一つとして、「水泳」が取りあげられた。

放送で使用されたプールは、大人にとっては、かなり浅いように見える。

芸人さんたちがプール内で立ったとき、水面の位置は腰よりやや上のあたりにある。水深は1m程度かあるいは1mを切るのではないかと推測される。そのような構造的に浅いプールにおいて、「運動神経悪い」とされる初心者が、プールサイドから飛び込みスタートをしようとしたのである。

■手や背中がプールの底にぶつかる

動画:日本スポーツ振興センター「水泳の事故防止―プールへの飛び込み事故を中心に」
動画:日本スポーツ振興センター「水泳の事故防止―プールへの飛び込み事故を中心に」

問題の場面は、2つある(放送された具体的な様子は、togetterのまとめを参照)。

一つが、ライスの田所仁さんが飛び込みスタートをする場面である。プールサイドから軽く跳び上がり、空中で倒立をするようなかたちで、真っ逆さまに手先から入水していく。

田所さんの手はすぐにプールの底にぶつかり、さらに後頭部を底に軽く擦るようにして背中側に倒れていき、背中を底に当てて、浮かび上がる。

もう一つは、ザブングルの松尾陽介さんが、個人メドレーで泳ぐために飛び込む場面である。田所さんよりは先のほうに飛んだため、真っ逆さまというよりは、やや前転しかけたかたちで水面に突っ込み、手から肩、背中が底に当たっていく。頭は内側に入っていたため、底には接触していないように見える。

■文部科学省資料「逆さまに深く入水し、水底に頭部を打ちつける」

文部科学省『水泳指導の手引(三訂版)』「第4章 水泳指導と安全」(131頁)より
文部科学省『水泳指導の手引(三訂版)』「第4章 水泳指導と安全」(131頁)より

上記の2つの場面は、体勢にわずかなちがいはあるものの、ほとんど同じ機序でプールに身体が当たっている。すなわち、頭から真下に突っ込んでいき、そのためすぐに手が底にぶつかり、頭や背中なども底に当たっていく

動画を何度見てもゾッとするのだが、事故が起きる具体的な状況はよく理解できる。じつはこの発生パタンは、文部科学省の資料でも具体的に指摘されていることである。

水泳プールの事故には、スタート時に、逆さまに深く入水し、水底に頭部を打ちつけて死亡等の事故が起きています。スタートの指導は個人の能力に応じた段階的な取扱いを重視し、指導者の指示に従って実施すること、水深や水底の安全を確かめ入水角度に注意することなど、安全に配慮した指導が大切です。

出典:文部科学省『水泳指導の手引(三訂版)』「第4章 水泳指導と安全」(131頁)より引用

■入水角度30度で水深1mに達する

動画:日本スポーツ振興センター「水泳の事故防止―プールへの飛び込み事故を中心に」
動画:日本スポーツ振興センター「水泳の事故防止―プールへの飛び込み事故を中心に」

日本スポーツ振興センターが作成した動画「水泳の事故防止―プールへの飛び込み事故を中心に」では、「水深が1mのプールにプールサイドから30度以上の角度で入水→頭が水底に衝突し頸髄(脊髄)を損傷する危険性が高くなる」(金岡恒治氏(早稲田大学教授)の解説)ことが指摘されている。

上記の2つのケースは水深が1m弱の状況で、入水角度は30度をはるかに超えている。動画を見る限り、入水時の水面との角度は、田所さんが80度程度、松尾さんが60度程度である。

急角度で突っ込んでプールの底に頭部を強打すると、首の骨が折れて、頸髄を損傷してしまう。重度の麻痺が残ったり、死亡することもある。2人の飛び込みはいずれも、危険性がきわめて高い状況であったと言える。

■笑い事で済ませてはならない

今回の事案では、田所さんも松尾さんに元気な姿でスタジオに登場していた。何事もなかったようである。

スタジオでは他の出演者から「危ない、危ない」「あれは真似しちゃダメです」という声もあがった。あの場面は、けっして笑い事で済ませることのできないものである。

幸いにして大事に至らなかったこの事案をしっかりと踏まえて、今後の事故防止を考えていく必要がある。

  • [参考文献]
  • 神舘盛充・金岡恒治・成田 崇矢他、「水中への飛び込み入水角度と頭部最大到達深度の関係」『日本臨床スポーツ医学会誌』22(1)、30-35、2014.
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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