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スズキが新時代の「ターボバイク」発表!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
スズキが提唱する新時代ターボバイク「Recursion(リカージョン)」

いよいよ来週に迫った「第43回東京モーターショー2013」(一般公開:11月23日~12月1日)。話題のモデルが各メーカーから出品されるが、中でも注目したいのはスズキが参考出品する「Recursion(リカージョン)」だ。

「Recursion(リカージョン)」は「ビッグバイクの走りとミドルバイクの扱いやすさ、経済性を両立させた」モデルとしてスズキが提案する新しいスポーツバイクだが、注目すべきは「ターボ車」であること。

全長2100mm、ホイールベース1450mmというコンパクトな車体に搭載されるエンジンは、ロングストロークの588cc水冷直列2気筒にインタークーラーターボを組み合わせたもので、スペック的には最高出力100ps/8000rpm、最大トルク10.2kgm/4500rpmを発生する。排気量のダウンサイジングにより、従来のエンジンと比べて燃費性能を50%ほど高めたという。また、トラクションコントロールやブレーキアシスト機能を搭載するなど、安全性にも配慮。メインフレームは軽量なアルミ製で、片持ちスイングアームやカーボンモノコックリアフレームの採用などにより、車重も174kgと軽量だ。ちなみに「Recursion」とは、回帰、再帰という意味で、スズキによれば、モーターサイクルの楽しみ方が多様化する中で「走る楽しさ」という基本に重点を置いたモデルとのこと。

スペック的には同クラスの排気量モデルに対して、およそ3割増し程度の動力性能を得ていると言える。コンパクトな車体に低中速に厚いトルクフルなエンジン、そしてターボの組み合わせにより、街中ではキビキビとワインディングでは伸びやかな加速感でライダーを楽しませてくれるはずだ。

4輪の世界ではすでに一般的なターボだが、その仕組みを簡単におさらいしておこう。ターボとは、排気ガスを利用してタービンを高速回転させることで、コンプレッサー(圧縮機)で空気を圧縮してエンジン内に送り込む装置のこと。これにより、本来の排気量を超えるパワーを得られたり、排気ガスのエネルギーを再利用することで結果的に燃費向上が図られ、クリーン排気にも貢献するなどのメリットがある。かように優れた特性を持つシステムだが、なぜ2輪に採用されなかったのか……。

実はかつて80年代にも国産メーカーを中心に盛んにターボ車が作られた時期があった。ホンダ「CX500&650ターボ」、ヤマハ「XJ650ターボ」、スズキ「XN85」、カワサキ「GPZ750ターボ」などが思い起こされるが、当時のキャブレターやインジェクターではターボの制御が難しく、軽量で不安定な2輪車との相性がいまひとつということもあり、その後に続かなかった。アクセル操作から実際にターボが作動するまでの時間的なズレ、いわゆる“ターボラグ”というものがあるが、特に2輪の場合、繊細なスロットル操作が求められるコーナリングでのラグは好ましくない。実際のところ、昔は“ターボ=ドッカンパワー”のようなイメージが付きまとっていたのも事実である。ただ、現在はFI(フューエルインジェクション)化とともに電子制御技術も格段に進んだこともあり、より緻密な出力特性のコントロールが可能になっているという。

ターボ化による排気量のダウンサイジングにより、パワーを落とさずに燃費を稼ぐ手法は、すでに4輪の世界では常識となりつつある。環境への対応を考える上でもターボは期待できる。自動車レースの最高峰、F1が2014年からは排気量1600ccV6直噴ターボエンジンへと移行(2013年までは2400ccV8NAエンジン)するのも、主に欧州の自動車メーカーのトレンドである「小排気量ターボ化」の流れに寄り添うものだ。時代とともに大排気量化、高出力化が進んできた2輪界においても、ここにきてターボの技術が導入されても不思議ではない。その意味で、軽自動車や小型車で豊富なノウハウを持つスズキは有利と言えるかもしれない。まずは東京モーターショーで「Recursion(リカージョン)」の実車をチェックしたい!

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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