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「スーパーカブ750」と揶揄されるナナハンバイク。でもそれは褒め言葉に違いない!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
HONDA NC750S Dual Clutch Transmission

「750ccのスーパーカブ、なんて言う人もいますけど(笑)」。先日、久々にNC750Sに乗る機会があり、そのときにホンダの関係者が教えてくれた。誰が言ったかは知らないが、それはきっと褒め言葉に違いない。

NCシリーズは「ニュー・ミッド・コンセプト」を掲げ、新しいモーターサイクルの形を模索するプロジェクトとして2012年に世に紹介された。モーターショーで初期型のNC700S(当初、排気量は700ccだった)がアンベールしたときに、ホンダの開発者にコンセプトを尋ねると「低回転・低燃費・低価格です!」とおっしゃっていたのが印象に残っている。およそ、バイクに似つかわしくないフレーズだったからだ。ホンダがその年の目玉として、肝入りで出してきた大型スポーツモデル。普通は、「高回転・高出力・プレミアム感」などと形容されるはずなのに真逆。自虐ネタかと思ったほどだ(笑)。

同シリーズの最新版ネイキッドモデルとして昨年春に登場したのがNC750Sである。わずか4000回転強で最大トルクを発揮する粘り強いエンジン、ナナハンでありながらリッター42kmという驚異的な低燃費、そして400cc並みのリーズナブルプライス・・・。初期型が出た当初は同社のコンパクトカー「フィット」の4気筒エンジンを半分にぶった切って流用したなどと揶揄されたこともあるが、それが本当だとしても良品であれば結果オーライだ。

HONDA NC750S Dual Clutch Transmission
HONDA NC750S Dual Clutch Transmission

ホンダのクルマはよく2輪的だと言われるが、NCシリーズはその逆。ヘルメット1個が丸々収められる大きなラゲッジスペースが本来の燃料タンクの位置に設けられ、外観デザインを損なうことがない点もクルマのトランクの機能に近い。そして、極め付けはデュアル・クラッチ・トランスミッション(DCT)である。簡単に言えばオートマだが、2輪のスクーターなどで一般的なCVTではなく有段式の自動変速機構を備えている。マニュアルとオートマ、両方の操作感を楽しめるのが美点で、これも4輪の世界では珍しくないが、2輪の量産市販車としては世界初である。等々、4輪も作っているメーカーらしい斬新な発想に思わず手を叩きたくなる。それでいて、NCシリーズにはライダーが求める"ファン"もしっかりある。

昔バイクに乗り始めた頃、スーパーカブにナナハンのエンジンを積んだらどうなるかな、なんて夢想したことがあったが、誰でも乗りやすく実用的で低燃費。そして意外とスポーティという点で、両者は共通するものがあるように思う。サウンドもちょっと似てたりして。

冒頭の言葉はまさに言い得て妙だ。決してハイスペックではないが、ある意味で全方位的にスーパーなバイク。先鋭化する大型スポーツバイクについ目を奪われがちだが、一方でこんな方向性もあっていい、というか大事に育てていってほしい。

ふと思った。ちょうどライダーの懐の位置にある大きなラゲッジスペースに子犬を座らせて、一緒に長い旅に出てみたい。そんな夢も広がるバイクだ。

※原文から著者自身が一部加筆しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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