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「制限速度120km/hへ」新東名の速度引上げ案は妥当か!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
「新東名高速道路」 ※写真はイメージ

新東名の制限速度を現行の100km/hから120km/hに引き上げようという議論が再燃している。現在工事中の愛知県区間、浜松いなさJCTと豊田東JCTが年度末までに開通する見込みとなったことを受けてのことだとか。

対象となっている場所は静岡県内を走る区間。地元自治体としては時短による首都圏からの流入効果により観光収入も増えることへの期待があるようだが、一方で事故増加への懸念もあり、警察庁でも今のところ慎重な姿勢をみせている。来年の3月までに国交省や有識者を交えて調査・検討を行いその是非を判断したい意向のようだ。

以前もコラムでふれたことがあるが、新東名は東名高速の渋滞緩和を目的として計画されたもので、140km/h走行を想定して設計されているのは有名な話。安全に超高速走行を実現するために勾配や曲率も非常に緩やかに設定され、舗装のアスファルト自体も新しく高性能なものだ。高速道路としてのクオリティは、かのアウトバーンにも匹敵すると言ってもいいだろう。

ただ、そこで問題になるのは事故である。以前、警察庁が実施した「規制速度決定の在り方に関する調査研究検討委員会」報告によれば、速度が100km/hを上回ると事故率が増加し、速度差が40km/hを超えると事故発生確率が上昇すること。また、利用者の意識調査の結果、約7割が「最高速度100km/hのままでよい」と回答している。こうした報告に基づくなら、たしかに120km/hへの引き上げには、更なる検証が必要と言わざるを得ないかもしれない。

翻って他国の場合はどうだろう。ドイツ・アウトバーンは130km/hと無制限区間があり、イタリアやフランスも130km/h、その他の国も120km/h程度の場合が多く、アメリカのフリーウェイは65マイル(105km/h)~75マイル(約121Km/h)。同じ島国で国土が狭い台湾でも100~110km/hだ。つまり、前述の警察庁の報告はあるにせよ、高速道路の制限速度として120km/hは世界的にみても法外な速度ではないのだ。

他にも考慮すべき要素がある。たとえば、運転マナーの問題も無視できないだろう。たとえば、追い越し車線をノロノロと初心者マークを付けたクルマが走り続けていたり、速度の出ない大型貨物車が道を譲らないなど。日本では日常的な風景だが、少なくとも欧米ではあまり見たことがない。特に自己責任が徹底した欧州諸国では、運転技量の高さもさることながらマナーも徹底している。高速道路を移動や輸送の手段として、皆が極めて効率的かつ合理的に運用している印象がある。

道路の構造や機能面だけを取り上げて議論しても、いつまで経っても結論は出ないのでは。

交通ルールや運転マナーの浸透や、危険予知などのハザード&リスク知覚への理解、事故や渋滞などへの対応も含めて、まずはドライバー教育にもっと力を注ぐべきではないだろうか。何よりも質の高いドライバーを育てることが、“高速道路の高速化”への有効手段と思われる。

120km/hへの引き上げは、それからでも遅くないと思うが。

※原文から著者自身が一部加筆しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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