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【まず手を動かそう】ヤマハの「親子エンジン分解・組立教室」に見たモノ創りの原点

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
自分の手でエンジンを組み立てる喜びを体験できる

'頭脳と手先をフル回転

先頃、ヤマハ本社のコミュニケーションプラザで開催されている「親子エンジン分解・組立教室」に参加してきました。本来は夏休みの子供向けイベントなのですが、今回は特別に体験取材ということで。周りは大人ばかりでしたが、皆さん童心に戻って夢中で”大人の工作”を楽しんでいました。

目の前に用意されたのは、一個のエンジンと工具類。バイク好き、機械好きなら、それだけでワクワクします。100ccのカート用エンジンで2ストなので構造も単純。これなら簡単にこなせると思っていたら、どっこい。バラしたのはいいが、キャブレターの向きを反対に付けてしまったり、ピストンがなかなかシリンダーの中に入ってくれなかったり、と意外と難しいのです。まるで立体パズルのようで、頭脳と指先の感覚をフル稼働しつつ、気が付くと私もすっかり作業に没頭してしまいました。ヤマハの社員が講師となって丁寧にアドバイスしてくれるのですが、これがまた元WGPファクトリーチームのメカニックだった方と後から知って大感動、というオチもあり。あっという間の楽しい数時間でした。

ヤマハ発動機が開催している「親子エンジン分解・組立教室」(出典:ヤマハ発動機)
ヤマハ発動機が開催している「親子エンジン分解・組立教室」(出典:ヤマハ発動機)

講座を通して感じた「モノ創り」の原点

エンジンに限らずですが、最近はモノをいじる、という機会がめっきり減った気がします。どんな情報でもネットで簡単に手に入り、自分の手を動かさなくても仮想現実や3Dプリンターで物体のイメージはつかめてしまう時代です。

でも今回、実際に自分の手で工具を使ってエンジンの分解・組み立てを体験したことで、リアルな金属の重さや冷たさ、鉄やアルミの質感の違いなどを、あらためて肌で感じることができました。特にパーツ同士が寸分違わずカチッと組み上がったときの喜びは、何とも表現しがたいものです。これはバーチャルの世界では決して理解できないものでしょう。自分の手でモノを作り上げる喜び、この達成感こそが、人を人として道具を使う動物へと進化に導いた原動力、つまり「モノ創り」の原点なのではないでしょうか。

日本人は昔からモノを作るのが得意な民族でした。木造建築としては世界最古の法隆寺や、同じく世界最大の東大寺などは驚異的な技術で作られています。法隆寺が地震大国である日本で1300年もの間、災禍に耐えてこられたのは独特の柔構造にあると言われますが、その発想が現代の超高層ビルに生かされているのは有名ですね。また、現代の産業を代表する自動車についても、最初は欧米の真似から始まったかもしれませんが、勤勉で器用、創意工夫が得意な日本人は1世紀を経ずして自動車産業を世界トップの地位にまで引き上げました。そして、モーターサイクルの分野では、世界に冠たる4大メーカー(ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ)が日本企業なのです。

ヤマハの「親子エンジン分解・組立教室」ではエンジンの構造や役割を分かりやすく説明してくれます。最初は訳も分からず、工具や部品をいじくり回していた子供たちも、新たな発見に出会う度に目を輝かせて笑顔になっていくそうです。もしかしたら将来、人類に貢献する偉大な発明をする子供たちが、こうした体験から生まれるのかもしれません。最近、小学生からプログラミングを学ばせようという風潮が出てきていますが、まずはリアルな世界でモノ作りの楽しさや達成感をもっと体験させるべきではないでしょうか。ITや英語教育の前に「まずは手を動かせ!」と思うのでした。

※原文から著者自身が一部加筆しています。

参照:ヤマハ発動機ホームページ

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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