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【MotoGPに学ぶ】ライディングスタイルはどこまで進化するのか!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

レッドブルの公式サイトに興味深い記事が載っていた。近代におけるMotoGPでのライディングスタイルの変遷について考察したものだ。私の記憶と主観も交えてレビューしたい。

◆[REDBULLMotoGP ライディングスタイルの進化]

ライディングスタイルにおける革新の歴史

まずはマルク・マルケスが象徴する肘擦りについて。最大バンク角70度に達する現代のMotoGPマシンでこそ成立する過激なスタイルだが、そこに至るまでにはいろいろな紆余曲折を経てきている。MotoGPの歴史とはライディングスタイルにおける革新の歴史でもあり、マルケスさえ現在進行形であるというのが論旨である。

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記事によれば、あるとき圧倒的な才能を持った「ゲームチェンジャー(形勢を一変させる者)」が登場しそれまでのライディングスタイルを陳腐化させるが、すぐに次の世代がその革新的技術を使いこなし、さらに上のレベルに引き上げるという。これが世界最高峰のロードレースの世界で繰り返されてきたというのだ。

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さらには、各メーカーが電子制御技術を投入することで、天才的なライダーの走りを技術力で再現することで、並みの実力のライダーでもゲームチェンジャーを追走できるレベルまでに追いついてくる。「テクニック」と「テクノロジー」の終わりのないせめぎ合いなのだとか。

たしかに一理ある。身近な例としてはサーキット走行のタイムが挙げられるだろう。一昔前であればプロライダーでなければ出せなかったようなラップタイムが、マシンとタイヤの進化やそれこそ電子デバイスの導入によって、趣味でサーキット走行を楽しむアマチュアライダーでも簡単に出せるようになってきているのは事実だ。

ライディングにおける「MotoGPスタイル」の起源

記事では現代のMotoGPスタイルにつながる起源として、1970年代後半に登場した米国人王者、ケニー・ロバーツを挙げている。2スト500ccの強大なパワーは当時の車体やタイヤの性能を上回るものだったが、ダートトラック出身のケニー・ロバーツは絶妙なスロットルコントロールと、コーナー内側に大きく腰をずらしたハングオフ&ヒザ擦りを駆使して、それ以降のGPライディングスタイルを一変させたという。

Kenny Roberts
Kenny Roberts

この辺りからはリアルタイムで見ていたので、個人的にも印象深い。ロバーツ以前にも腰をイン側にずらしたり、ヒザを路面に当てるスタイルは存在したが、ハングオフ(ハングオン)を洗練された最先端のテクニックとして定着させたのは。紛れもなくロバーツの功績と言えよう。

ダートトラック由来の新しいスタイルの流れ

その後、1980年代初頭はロバーツの後を継ぐチャレンジャーたちがその走り方に磨きをかけつつ、旧来のクラシックなライディングスタイルとダートトラック由来の新しいスタイルがしのぎを削った時代としている。

思い起こすとロバーツを引退に追いやった若き天才、フレディ・スペンサーの3点スライド(あの時代に彼はなんと前輪と後輪とヒザを支点とし、スライドさせて向きを変えていたのだ)は鮮烈だったし、その後の4強時代を築いたウエィン・レイニーやケビン・シュワンツ、ワイン・ガードナー、そしてWGP5連覇を達成したミック・ドゥーハンらが見せつけた芸術的なとも言えるパワースライドに酔いしれた記憶がある。彼ら、米国や豪州のダートトラック出身のライダーがロードレースを席巻した時代だった。

Freddy Spencer
Freddy Spencer

この頃は伝統的なグリップ走法で育った欧州系ライダーは皆苦戦していた。電制のない時代、ロデオの暴れ馬をねじ伏せるように乗りこなすアメリカンライダー達にまるで歯が立たなかったのだ。ちなみにヤマハとホンダの両方で3度の王座に輝いたエディ・ローソンはグリップ走法だった。

マシンとともにタイヤの進化も見逃せないポイントだ。80年代は2輪用タイヤもそれまでの「バイアス」から「ラジアル」へと変わっていった時代で、ロードレースでもタイヤの性能が上がったことにより80年代後半には一時グリップ走法が復権。

90年代に入り、熟成を重ねた2ストマシンはさらにパワーアップしつつも、ホンダ・NSR500に代表される位相同爆エンジンなどの投入により扱いやすいトルク特性を得たことで、再びスライドさせて向きを変えるテクニックが流行。ホンダのエース、ミック・ドゥーハンが十八番の豪快なパワースライドとともに頂点を極めた時代である。

テクノロジーの進歩と過去のあらゆるスタイルの統合

そして、2000年シーズンを前に怪我で引退を余儀なくされたドゥーハンに代わって、ホンダのエースとして一躍脚光を浴びたのがヴァレンティーノ・ロッシである。125、250、500すべてのタイトルを総なめにしつつ、新たなレギュレーションにより4スト1000ccマシンで競われることになったMotoGPにも素早く順応し、あっさりと初年度チャンピオンを獲得してしまう。

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記事ではロッシの強みは、「テクノロジーの進歩への対応力と巧みなレース構成力にあり、過去のあらゆるスタイルを統合できたこと」とし、グリップ重視とスライド走法の両方を自在に使い分けていると記している。

これに対し、ホルヘ・ロレンソは最新マシンの技術革新の恩恵を最大限に活かすスタイルでMotoGPマシンをまるで250ccのように軽やかに乗りこなせるのが強み。マシンが持つ性能限界の中で巧みに乗りこなす、いわばスマートな走法でロッシに対抗しているとしている。

そして、最後に再びマルケスが登場。彼は現代の驚異的なタイヤグリップ性能の限界のさらに先に挑んでいるという。従来のライディングスタイルでは不可能と思えた前輪のスライドをも許容する類稀なバランス感覚と強いメンタリティがそれを可能にしているのだとか。

そして、今後もライディングスタイルとテクノロジーの革新による循環構造は繰り返されながら、新たな天才の出現を待っている、という内容だった。

モータースポーツのブレークスルーは今後も続く

人間とマシンが一体となって限界を超えていくところにモータースポーツの醍醐味がある。もしかしたら将来はこれに人工知能が組み合わされて、我々には思いもよらなかった新たなライディングスタイルが登場するかもしれないが、個人的には当面は「肘擦り」の次にくるテクニックに関心を寄せている。果たして次にどこを擦るのか、あるいは擦らない方向にいくのか・・・・・・。

モータースポーツでは、最新技術を投入したマシン自体の存在が大きな見どころではあるが、たとえテクノロジーがどこまでも発展していったとしても、あくまでも主役は人間であってほしい。レースの勝敗がマシンの性能によって確定してしまうことほど退屈なものはないだろう。やはり、ひとりの天才が切り開く新たな地平を見てみたい。ブレークスルーの瞬間が今から楽しみだ。

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※原文より筆者自信が加筆修正しています。

◆[REDBULLMotoGP ライディングスタイルの進化]

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モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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