【バイクのタイヤ考】ウェット路面との相性は見た目だけでは分からない
先頃メーカー主催のプレス向け試乗会があり、「雨の中」思い切りサーキット走行を楽しんできました。タイヤ製品のテストではなかったのですが、結果的にウェット路面でタイヤの限界まで試せる滅多にない機会ということで、私自身もいろいろと新たな発見がありました。
というわけで、今回はタイヤのウェット性能にフォーカスして感じたことをレポートしたいと思います。
同じモデルなのにグリップ感に大きな差、これは?
当日は朝から本格的な雨で、路面はフルウェット。最初はミドルクラスのツーリングモデルを新旧2台乗り比べたのですが、ほぼ同じモデルなのにタイヤのグリップ感に大きな差があることに驚きました。
タイヤの銘柄はそれぞれ異なっていましたが、カテゴリー的には同程度のツーリングタイヤに見えます。一方はけっこう普通に寝かし込んでいけるのに、もう一方は浅いバンク角でもすぐに接地感が薄くなってきて、その直後に滑り出します。
何回か試してみましたが同じ傾向なので、もうそうなると神経がすり減ってまともに走れません。他にも2輪ジャーナリストやプロのレーシングライダーが参加していましたが、皆さん同意見のようでした。
グリップ感に差がつく原因は何なのか
その場はなんとか無事に切り抜けましたが、でも原因が何なのか気になります。空気圧は適正だし、溝もばっちり残っているし、製造年月日も新しいのに何故? サーキットならまだしも、これが公道だったら気付かないうちに大きなリスクを負う可能性があります。
そこで、後からちょっと調べてみましたが、その接地感が希薄になるタイヤは車種専用タイプで、トレールタイヤのカテゴリーに分類されていました。見た目は普通にオンロードっぽいのですが、実はオンとオフと両方いけるデュアルパーパス的な性能が与えられたタイヤだったのです。
以前、タイヤメーカーの開発者に聞いた話で、「同じように見えるグルーブ(溝)でも、オンロードタイヤは排水性を優先しているのに対し、トレールタイヤは林道などの未舗装路でのトラクション(駆動力)を重視している」と説明されたのを思い出しました。
なるほど、タイヤの種類やカテゴリーによっては、サーキットという完璧な舗装路面であっても、完全なウェット状態の中では相性が悪い場合もあるのかも。溝がしっかり入ったタイヤが必ずしもウェット路面に強いわけではない、という推論に辿り着きました。
あのときのイメージを思い出してみると、たしかに常に薄い水の膜に乗っかっているような曖昧な感覚がありました。あくまでも個人的なフィーリングですが・・・。
ということで、タイヤの溝は見た目は同じようでも、目的タイプ(ツーリング用、デュアルパーパス用、ロードスポーツ用など)によって役割が異なるということのようです。もちろん、コンパウンドや構造そのものにも違いがあるはずなので、製品スペックなどから総合的に判断することが大事かと。
単に見た目から判断して、これはハイグリップだとか、ウェット性能が高そうだとか決めてかかると思わぬしっぺ返しを食うことも考えられます。今回の経験からそれをリアルに理解できました。
電制の進化によるウェット性能の底上げ
また、一方では最新のハイグリップタイヤのウェット性能にも感心させられました。元々、ドライな舗装路では抜群のグリップ性能を発揮するこの手のタイヤですが、最近はコンピュータ解析技術の進歩により、構造そのものやコンパウンド、グルーブデザインなどのトータル的な性能向上により、ウェット性能も相当レベルアップしています。
かつてはグルーブが刻まれていないエッジ部分(タイヤの端)は、雨の日は使い物にならないと言われていましたが、最近ではコンパウンドが分子レベルでアスファルトの細かい凹凸に食い込むことで、グルーブだけに頼ることなくウェット性能を発揮できるそうです。
加えてバイクも最新モデルでは、コーナリングABSやトラクションコントロールなどの電子制御が導入されることで、ライダー側のミスをだいぶカバーしてくれるようになりました。いわば、マシンがタイヤのグリップの限界の先まで面倒をみてくれるわけです。タイヤそのものの性能向上とこうした電制の進化が組み合わさって、ウェット性能が底上げされているのだと実感したのでした。
とはいえ、どんな優れたタイヤにも限界はあります。ことさら、一般道では安全マージンをたっぷりとって、無理のない慎重なライディングを楽しんでいただきたいと思います。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。