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【2輪雑学】「ブレーキのかけ方」は千差万別。状況に応じて使い分けよう!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
(写真:アフロ)

先日、ライディングスクールの参加者からブレーキのかけ方について質問を受けました。ベテランのライダーなら普段から無意識に行っている操作でも、初心者には分からないことだらけ。私なりのアドバイスをまとめましたので、ご参考にしていただければと思います。

バイクのブレーキの特徴とは

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ご存じのようにバイクには前後別々にブレーキがあります。クルマはひとつのブレーキペダルを足で操作しますが、バイクの場合はフロント側をブレーキレバーで、リヤ側をブレーキペダルで別々に操作するのが一般的です。これを「2系統2操作」と言います。

前後ブレーキにはそれぞれに特性があるので、これを巧くミックスしてあるいは使い分けるのがポイントとなります。

フロントブレーキには強力な制動力があり、メインブレーキの役割と言っていいでしょう。とりわけ最近のディスクブレーキは強力で、指一本でかけても十分な制動力が得られるほどです。

一方、リヤブレーキの制動力は弱めですが、バイクの姿勢を安定させる効果があります。アクセルと併用することで微妙な速度調整もしやすいなど、補助的な使い方にも適しているため、サブブレーキとしても重宝します。

ブレーキのかけ方には様々なパターンがあります。状況によってそれこそ千差万別と言っていいでしょう。ただ、それでは説明にならないので、何通りかのパターンに分けて解説したいと思います。

【信号停止時】目標制動

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一般ライダーの皆さんが最もよく遭遇するパターンとしては、信号停止でのブレーキングが挙げられます。専門的には「目標制動」というもので、ある目標に対してその場所できっちり止まるスキルが求められます。

ブレーキのかけ方としては、一瞬リヤ側を先にかけてバイクの姿勢を安定させてから、フロント側をじんわりとかけていく感じです。フロントだけ強くかけるとバイクが前のめりになってバランスを崩しやすく、逆にリヤ側だけだと制動力が足りず、焦って強くかけすぎるとブレーキロックする場合もあり危険。前後ブレーキをバランスよく使って制動するのが大事です。

そして、停止する直前にフロントブレーキを緩めることでカックンブレーキを防ぎつつ、最後はリヤブレーキだけで停止と同時に左足を着くのがベストです。

【危険回避時】急制動

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急ブレーキをかける状況にはなるべくしたくないですが、危険を避けるためにどうしてもせざるを得ない場合もあるでしょう。たとえば、脇道から急に自転車が飛び出してきた場合など、まずは全力で止まる必要があります。いわゆる「急制動」ではなるべく短い距離で減速停止させる必要があります。

この場合は、前後ブレーキをほぼ同時(余裕があればリヤ側を少し先)に「ジワッ」とかけつつ、フロントフォークが沈んで前輪が路面に押し付けられた感覚を確認しながら「ギューッ」とブレーキレバーを握り込んでいきます。

「急制動」の主役はフロントブレーキであり、前輪がロックする直前の状態のまま、完全停止するまでかけ続けられるのがベストです。

ただ、緊急時にこうした操作を冷静にこなすことは非常に難しく、「急制動」のスキルを身に着けるためには日頃からトレーニングを重ねて体で反応できるようにしておく必要があります。上の写真のように最終的には回避行動をとることも想定しておきますが、車体を傾けながら強くブレーキをかけるとロックする危険があるため、どうしても回避せざるを得ない場合には一旦ブレーキを緩める必要があります。

また、ABSが装備されているモデルでは、ABSを作動させて止まったほうが結果的に安全で制動距離も短い場合がほとんどです。理論的にはABSは制動距離を短縮するものではありませんが、現実的にはパニック状態での微妙な入力コントロールは困難だからです。

【コーナー手前】速度コントロール

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街中にある交差点の手前や、ワインディングロードのコーナー手前でも、道の曲がり具合に合わせて速度を調整する必要があります。ここで求められるのは正確な「速度コントロール」です。

ブレーキのかけ方としては、”一定に長くかける”のがポイント。急制動とは逆に、時間と距離をたっぷりとって穏やかに減速していくイメージです。リヤブレーキはとにかく一定にかけて姿勢を安定させつつ、細かい速度調整はフロントブレーキで行います。

コーナーに対して速度が高すぎれば少し強めに、十分減速が足りていれば途中で弱めるなど、フロントブレーキの微妙なサジ加減がキモになります。

よくある勘違いが、コーナー手前でも急制動のようなかけ方をしてしまうことです。コーナー直前まで我慢して、一気に強いブレーキをかけたがる人に多いのですが、いわゆる”ガッツン”ブレーキになってしまいバイクの姿勢が乱れたり、プレッシャーから逆に減速しすぎてしまったりで、コーナリングのリズムがつかめずストレスばかり溜まってしまいます。

「ブレーキング」の意識で安全で快適なバイクライフを

大事なのは、公道では無理をしないこと。ブレーキングで冷汗をかいたり、ドキドキするのは、すでに危険な領域に足を踏み入れているということですから。ひと口にブレーキングと言っても、このように様々なパターンがあり、状況によって使い分ける必要があります。無意識にやっている操作とはいえ、実は高度なスキルが含まれていることがお分かりいただけたと思います。

さらに言うと、急ブレーキをかけずに済むよう、テクニック以前に危険予知を最優先に心がけることが何よりも重要です。普段からちょっと意識するだけで、より安全で快適なバイクライフが楽しめるはずよ。

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※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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