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「MotoGPの光と影」 日本グランプリを終えて気になったこと

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
年間タイトルを獲得したホンダのマルク・マルケス

MotoGP日本グランプリが終了し、フタを開けてみればやはりというか、ほぼ予想されていた結果となりました。

シーズン当初から圧倒的な強さで勝ち進んできたホンダのマルケスが今年4度目の勝利とともに年間チャンピオンの座を獲得。23歳という若さで最高峰クラスの年間タイトル3回獲得いう史上最年少の記録も打ち立てました。

やはり、今年も「もてぎ」が天王山となりましたね。2位にはドゥカティのドビツィオーソ、3位にスズキのビニャーレスが入る健闘を見せました。

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ヤマハのロッシ、ロレンソの両エースはともに転倒リタイヤ

スタート直後からマルケスとともに先頭集団を形成したヤマハのロッシ、ロレンソの両エースはともに転倒リタイヤという残念な結果となりましたが、こうしたドラマも含めて世界最高峰のロードレースの醍醐味と感動を与えてくれるものでした。

しかしながら、ヤマハの両エースのダブルリタイヤというのは珍しいことです。しかも二人とも単独転倒。何故なのか気になりますよね……。

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今年からMotoGPクラスの公式タイヤサプライヤーが昨年までのブリヂストンからミシュランに代わり、マシンとのマッチングが重要な要素であることは前回のコラムでもお伝えしたとおり。

ロッシとロレンソはそれぞれ「ヘアピン」と「V字コーナー」で転倒するなど、低速コーナーで起きています。もてぎは世界有数のブレーキングコースとして有名ですが、ほとんどのコーナーは直角かそれ以上に深く曲がり込み、しかもカントがなくフロントブレーキを残しながらの進入がしづらいレイアウトになっています。

転倒の原因についてロッシは「理由がわからない」、ロレンソは「タイヤの選択ミス」とコメントしていますが、他のライダーも含めてコーナーでの転倒が多かったことからも、何かしらコースとタイヤの間に因果関係があったのかもしれません。

もしかしたら、フロンタイヤのエンドグリップ(限界付近のグリップ性能)のフィーリングが、従来のブリヂストンとミシュランでは異なっていたのかもしれません。個人的な憶測ではありますが。

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日本人ライダー健闘も表彰台の獲得には至らず

日本人はというと、MotoGPクラスで全日本チャンピオンのヤマハの中須賀克行が11位、負傷欠場したペドロサの代役として急遽出場したホンダの青山博一が15位。Moto2ではフル参戦中の中上貴晶が惜しくも4位。

日本人女性としては21年ぶりの世界選手権への参戦が話題を呼んだ、Moto3の岡崎静香は26位で完走ということで、日本人ライダーも健闘しましたが、残念ながら表彰台の獲得には至りませんでした。

とりわけ残念だったのは、Moto3で規定違反により失格となった尾野選手の一件です。

今回、3位入賞と日本人で唯一の表彰台を獲得したかに見えたのも束の間、レース後の車検で最低重量(ライダーとマシンの合計最低重量規定152kg)に足りなかったことが判明し失格処分となってしまいました。

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Moto3は250cc単気筒マシンで争われる最軽量クラスで、エンジンも同一としてマシンの性能差をなくすことで、最もライダーの実力が問われるクラスとなっています。これは、将来のMotoGPを担う若手育成のためのクラスでもあるからです。

その分、年齢制限がありマシンの改造範囲も厳しく制限されるなど、イコール・コンディションでのレースを強く打ち出しているクラスと言えます。小排気量で規制も厳しい分、車重が速さに大きく影響するため、そこに一層厳しい目が向けられるわけです。

足りなかったのは、わずかに400グラムだったとか。缶ジュース1本分です。それだけの理由で、表彰台の歓喜から一転して奈落の底へと落とされた尾野選手の気持は察するに余りあります。

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先のオリンピックでもドーピング問題が世間を騒がせましたが、選手の知らないところでチームドクターが処方した薬が、うっかり違反だったという事例とも重なって見えました。

尾野選手のチームにも悪意があったとは考えにくいですが、レギュレーションを違反すれば本人やチームの不断の努力もすべて水泡に帰すという、厳しいレースの現実を見せつけられた感があります。

ワイン・ガードナー氏が交通トラブル

残念なことと言えばもうひとつ。決勝当日の朝、元世界グランプリ500ccクラス王者のワイン・ガードナー氏が交通トラブルで栃木県警に現行犯逮捕されたというニュースがありました。

新聞などによると、同氏がもてぎの施設内をクルマで走行中、他のクルマと接触したことから乗っていた日本人男性3人と揉み合いになり、暴行容疑を問われたということ。本人は「腕をつかまれたので振りほどこうとしただけ」と否認しています。

いろいろな情報を総合すると、Moto2に参戦中の息子、レミー・ガードナーをクルマで送っていく最中、レース進行に遅れそうで急いでいたようです。接触された方は当て逃げされたと思ったとか、さらに事故当時は息子が運転していたという証言もあるなど情報は錯綜しています。

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ただ、いずれにしても、元世界チャンピオンがしかも世界選手権を開催中のサーキットで、いわばレーシングライダーにとっての聖域で逮捕されるというのは、情けない話としか言いようがありません。ちなみにある新聞の扱いでは、ガードナー氏逮捕の顛末が日本グランプリの結果よりも大きな扱いで報じられていました。

「バイクの世界王者なんて所詮そんなレベルか」と一般の人々に思われてしまうとすれば、個人的にも非常に残念なことです。

うっかりミスや魔が差すということは、誰にでもあることだと思います。ただ、その代償は場合によっては計り知れないものになってしまうという教訓かと思いました。

筋書きのないドラマに感動しつつも、何か後味の悪さが残った今回の日本グランプリでした。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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