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MotoGPライダーと同じ安全性を身に着ける!? ダイネーゼの画期的エアバッグシステムとは…

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
(写真:アフロ)

ダイネーゼ&AGVジャパンは、ワイヤレスエアバッグシステム「D-air Armor」を国内レザースーツメーカーへ供給開始することを発表した。MotoGPで培われた最高レベルの安全性を一般ライダーが享受できる時代がくるかもしれない。

画期的なワイヤレス式内装エアバッグ

ダイネーゼが開発した「D-air」は、ワイヤレス式エアバッグシステムである。特徴はインナーウェア型であること。

背面を保護するバックプロテクター部分に、ガス発生装置からバッテリー、GPSまで制御システムの全てが収められている。

具体的には4リッターのエアバッグによって首の動きを制限し、肩、鎖骨、胸部の上側を保護しつつ、胸への衝撃を現行のCE Level2のプロテクターよりも85%軽減。エアバッグとシステムを含めた総重量は650グラムと超軽量で、テレメトリーにより走行データの解析も可能となっている。これまでもスーツの外側から身に着けるハーネス型やベスト型のエアバッグは存在していたが、内装式のタイプを製品化したのはダイネーゼが初である。

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ロッシと同等の安全性が手に入るかも

「D-air」は世界最高峰の2輪レースであるMotoGPの現場を中心に15年以上におよぶ研究開発から生まれたシステムである。

昨年からは新たに「D-air Armor」として他ブランドへの供給を開始し、Vircos社 や Furygan社などの海外レーシングスーツメーカーがいち早く採用し、契約ライダーへの提供を行っていたが、今回初めて国内ブランドへの供給が開始されることになる。

「D-air Armor」の普及により、ダイネーゼ製スーツを着用していないライダーでも、ダイネーゼと同じ安全性を手に入れることができるというのが、今回最大のトピックスである。つまり、バレンティーノ・ロッシなどのMotoGPライダーと同等の安全性を、他ブランドのレザースーツを着る一般ライダーでも享受できる可能性があるということだ。ちなみに一般向けとしては、その技術的フィードバックはこれまで自社ブランド製品である「D-air Racing」シリーズにのみ採用されてきた。

ダイネーゼの普及版の「D-air Racing Mugello」は、オーダーメイドでのみ提供可能な、カンガルー革を使用した最上級モデル。 「D-air Racing Misano」は一般的なサイズ展開がある牛革を使用したスタンダードモデルとなっている。

D-air Racing Misano製品解説動画

電子制御でダメージを最小限に

“判断基準を備えた”エアバッグ・プロテクションと謳われている「D-air Armor」には最新の電子制御技術が投入されている。その仕組みはこうだ。

GPSテクノロジーを応用した7つのセンサーが常にライダーの動きを正確に把握し、危険なクラッシュが起こる際に0.015秒以下でライダーの動作を探知。実際のクラッシュまでの間に高度なアルゴリズムが状況を的確に判断し、エアバッグの起爆のタイミングを調整した上で、予めインプットされた作動条件を満たしたときに0.03秒でエアバッグが完全膨張、0.08秒以内にフルプロテクションレベルに達するというもの。

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ちなみに作動条件とは「ハイサイド」かあるいは「回転を伴うローサイド」となっている。

ハイサイドとは、後輪スライド時に急速にグリップが回復した場合に発生するもので、ライダーはバイクから宙高く投げ出されるため非常に危険でダメージの大きい転倒パターン。頭や肩から落ちることが多いため、首や肩などにダメージを負うことが多い。

「ローサイド」は前輪か後輪、どちらかがグリップを失った場合に発生するスライドダウンで、ライダーがバイクから離れてそのまま滑走すれば少ないダメージで済むが、回転しながらバイクから投げ出された場合には大怪我につながることも多い。

「D-air Armor」はクラッシュの危険性を極めて正確に予測し、こうした条件に当てはまる場合でのみ作動するため、たとえば50km/h以下の転倒などエアバッグによる防御が必要のないケースでは作動しない。

最近は趣味でサーキット走行を楽しむ一般ライダーも増えてきている。モーターサイクルの高性能化に伴い、ライダーの安全な走行を担保するにはライディングギアの進化も欠かせないものとなっている昨今、とても価値のある嬉しいニュースである。今のところ具体的な国内メーカーへの供給先や価格設定などは明かれていないが、期待を込めて待ちたい。

The D-air History (日本語字幕)

リノ・ダイネーゼのあるひらめきから90年代に始まったDainese D-airテクノロジーの開発プロジェクト。これまでのD-airテクノロジーの歴史を動画で振り返っている。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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