Yahoo!ニュース

LAのスタジオで、日本の怪獣への限りない愛と芦田愛菜への絶賛を熱く語った監督

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『パシフィック・リム』 今夏、全国ロードショー

モンスターではなく、あくまでも「KAIJU」

例年にないほどアクション超大作が活況をみせそうな今年の夏。なかでも個人的に期待感を高めていたのが『パシフィック・リム』だ。とくに映画好きではない人には、なじみの薄いタイトルかもしれない。しかしこの映画、日本人、とくに男子には強烈にアピールする要素が凝縮されている!

監督のギレルモ・デル・トロは、メキシコ出身で『パンズ・ラビリンス』、「ヘルボーイ」シリーズなどの作品で世界中に熱狂的なファンをもっていることでも有名だ。そのデル・トロが、4月初旬に出演者の芦田愛菜とともに来日記者会見を行なう予定だったのだが、家族の急病でキャンセル。その代わりにLAでインタビューに応じてくれることになった。ワーナー・ブラザースのスタジオで、われわれ日本人ジャーナリストを迎えたデル・トロは満面の笑顔を浮かべ、とにかく作品への愛と情熱を語りたくて仕方ない様子だった。

『パシフィック・リム』の物語を簡単に説明すると……太平洋(パシフィック)の深海から出現した巨大生命体に対し、人類が開発した「イェーガー」という兵器が戦う、というもの。この生命体、映画の中で、なんと「KAIJU」と呼ばれて登場するのだ。ハリウッド映画なのに、「怪獣」ですよ! 「NINJA」や「SAMURAI」という呼称はすっかり世界的に定着しているが、さすがに「KAIJU」はまだまだ一般的ではない。なのにあえて、そう呼ばせているのは、デル・トロ監督の過剰なまでの「KAIJU愛」があるから。何気ない会話にも「KAIJU」、「YOKAI」なんて単語がポンポンとび出してくる。このオタクぶりは映画ファンには有名で、デル・トロは来日のたびに空のスーツケースを何個も用意して、中野ブロードウェイなんかに出向いて、ありえない量の日本のオモチャを買って帰るのだ。今回の来日キャンセルは本人にとっても残念だったと思うが、「数年後には日本に住みたい。いや、マジだよ。旅行で行くだけじゃ物足りないんだ」と、今回の取材でも目をキラキラと輝かせて興奮気味に語っていた。

60年代の「ウルトラ」世代から、現在の「エヴァ」世代までアピール

ワーナー・ブラザース・スタジオ
ワーナー・ブラザース・スタジオ

ワーナー・ブラザースのスタジオ内にあるデル・トロのオフィスは、間もなく映画が完成ということで最後の仕上げが続いていた。コンセプト・アートなど貴重な資料が飾られているなか、ひときわ目を引いたのが、テーブルに置かれた、今回の劇中に登場する、何体もの怪獣のフィギュアだった。大きさは約1mほどなのだが、これらのフィギュア、デル・トロによると「僕のコレクションとして特別に作ったものだよ!」と、ここでも目がキラキラ! さらに「これは怪獣の目の下から採取した組織」とか言いながら、巨大ナマコのような物体を見せてくれたりして、いやー、予想を上回るマニアなこだわりに、正直、うれしい驚き!

怪獣キャラのデザインのキーワードは「着ぐるみ可能」。これだけの超大作なので、当然、怪獣のビジュアルはCGなのだが、日本の怪獣へのオマージュとして、あくまでも「中にスーツアクターが入って動けるようなコンセプト」が貫かれている。実際に着ぐるみで撮るわけじゃないのに! 「ウルトラマン」シリーズに熱狂した世代には、涙なくしては見られないデザインだと断言しよう。さらに人間側のイェーガーには、「鉄人28号」や「ガンダム」からの影響も濃厚だし、物語の世界観には「エヴァンゲリオン」の香りさえ漂う。多角的な面で日本人観客の心を熱くするという予感は、現実になりそうな気がする。

撮りたい映画を撮る。そのまっとうな姿勢に感動

『パシフィック・リム』では、イェーガーを動かすヒロイン役が菊池凛子で、その少女時代を芦田愛菜が演じているのだが、少女時代も物語の重要なカギ。日本が誇る天才子役を演出したデル・トロが、芦田愛菜に対し、怪獣愛に劣らないほどの熱い思いを語っていたのが印象的だった。日本向けのリップサービスではなく、そこには映像作家としてのピュアな喜びが溢れていた。

映画作家としてのピュアな創作意欲。心から作りたい作品を撮ることーー。この、まっとうな姿勢を保つことは、作品が大きくなればなるほど難しくなっていく。ハリウッドという巨大映画ビジネスにおいては、なおさらだ。そのハリウッドのメジャースタジオで、ギレルモ・デル・トロは、今、まさに自分の作りたい作品を完成させようとしている。映像作家の「まっとうな姿」を、この夏、われわれはスクリーンで目撃することになる!

パシフィック・リム』 (c)2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事