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今なぜ、カンバーバッチ人気? ロンドンで触れたその素顔は…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『スター・トレック イントゥ・ダークネス』ワールドプレミア in ロンドン

スクリーン以外で感じるスターの魅力

スターにとって、素顔の魅力はどれくらい必要なのか? 俳優がスクリーンの中で輝きを放っていれば、とりあえずスターへの道が開ける可能性があるわけだが、演技をしていない、素(す)の時間の彼らがどこまで人々を惹き付けるかどうかも、キャリアを成功させるための重要な要素となる。

たとえばジョニー・デップ。シザーハンズやジャック・スパロウ、この夏公開の新作『ローン・レンジャー』のトントなど、当たり役はエキセントリックで過激なキャラが多いのに反して、素顔のジョニーはつねに穏やかで、その場の空気をホッコリさせる人柄。一時、ジョニーは取材の“遅刻魔”として有名になったが、遅れてきても、妙に穏やかな雰囲気が現場を支配し、取材する側の気持ちもなぜかリラックスさせていく。ちょっとした魔法の持ち主であるかのようだ。

女優では、アンジェリーナ・ジョリー。インタビューでは、どんな変化球の質問にも「そう返すか!」というおもしろい答えで応じる。要するに瞬発力が優れた人なのだが、そんなアンジーの特徴も、スターの素顔としての魅力になっている。

超大作での悪役で人気も拡大か?

プレミアで取材に応じるベネディクト・カンバーバッチ
プレミアで取材に応じるベネディクト・カンバーバッチ

前置きが長くなってしまったが、そんな素顔の魅力を久々に感じさせるスターが現れた! ベネディクト・カンバーバッチである。映画雑誌などで、この人を表紙にすると確実に売上が急上昇する、いま最も“旬”の俳優だ。彼の人気を確固たるものにしたのは、イギリスBBC製作のドラマ「SHERLOCK/シャーロック」だが、今年の夏に公開されるアクション超大作『スター・トレック イントゥ・ダークネス』で、その人気はさらに拡大しそうな気配である。

『スター・トレック〜』でカンバーバッチが演じるのは、テロ攻撃を仕掛けてくる悪役のジョン・ハリソン。なぜカンバーバッチ人気が加速しそうなのかといえば、劇中での悪役ぶりが、最近のこの手のアクション映画に比べ、超インパクトを放っているからだ。『羊たちの沈黙』のレクター博士や『ダークナイト』のジョーカーを観たときの衝撃に近い。予想以上に肉体アクションにも挑戦するカンバーバッチ。肉弾戦で前髪がハラリと落ちる姿に、女性ファンは歓喜するかもしれない。さらに魅力的なのは、その「声」で、英国人俳優らしく舞台で鍛え上げた深く響き渡るセリフ回しが最大限に発揮されるシーンもあり、聴覚からスクリーンに吸い込まれるような錯覚をおぼえた。カンバーバッチの声の質は、アラン・リックマンに似ている気もする。そういえばリックマンのブレイクのきっかけになったのも、『ダイ・ハード』の悪役だったっけ。

ノンストップでしゃべる!しゃべる!

そんなカンバーバッチの素顔はどうなのか? 昨年末に来日したときも感じたのだが、この人、しゃべり始めたら止まらない! インタビューの答えでも、下手したら1問に対して5分くらいはしゃべり続けている。そしてフッと息をついた瞬間、我に返り、「ごめんごめん、またしゃべり過ぎちゃった。他の質問にも答えなきゃ」などと弁解。しかしその次の瞬間、さっきの続きをまた延々と話し始めたりもする。これで話の内容がダラダラとしていたら問題だが、内容も知的でウィットに富んでいるから、聞いていて退屈を感じる瞬間はない。ここにカンバーバッチの素顔の魅力がある気がする。

今回のロンドン取材では、インタビュールームに入ってくるやいなや、「ごめん、ちょっと手を洗ってくるね」とバスルームへ一直線。その後、目の前に置かれたブルーベリーやラズベリーでいっぱいのボウルをうれしそうに眺め、つまんで食べながらのインタビューとなった。素手で何かを食べる際は、まずちゃんと手を洗ってから…と、お行儀のいいカンバーバッチ。このあたりが多くのアメリカ人俳優と違って、英国的? 日本人の感覚に通じる部分があるのかも。

そして今回のインタビューも、またしてもノンストップトークは止まらず。インタビュー後の写真撮影で、日本用のポスターの前に立ったときも、口を休ませる考えは一切ナシで、「これ、日本用のポスターなの? いいねー! あ、セントポール(ロンドンの有名な大聖堂)が燃えてる。カッコいい。でも映画の中ではたしか燃えてないよな、ハハハハ!」と、無邪気に大笑い。飾らない自分をさらけ出すのであった。

レッドカーペットならぬ「ホワートカーペット」のプレミア会場
レッドカーペットならぬ「ホワートカーペット」のプレミア会場
何時間も前から場所取りをしていたファンは、カンバーバッチの到着に大歓声!
何時間も前から場所取りをしていたファンは、カンバーバッチの到着に大歓声!

このインタビューの前日に行なわれた『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のワールドプレミアでは、会場に到着したとき「英国の至宝!」とアナウンスされるほど、ベネディクト・カンバーバッチは絶大な人気を示した。なじみのない人には覚えにくい名前ではあるが、ジョニー・デップやアンジェリーナ・ジョリーのような、誰もが認める超トップスターの地位に彼が君臨する日は、はたして…? すべては今後の活躍にかかっているものの、そうなった日に「彼の素顔」の魅力を思い出すことになりそうだ。

『スター・トレック イントゥ・ダークネス』

8月23日(金)全国ロードショー

(c)2013 Getty Images

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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