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愛される素顔の持ち主だった、「glee」スターのあまりに早過ぎる死

斉藤博昭映画ジャーナリスト
コリー・モンティス

人気ドラマ「glee/グリー」のコリー・モンティスが急死した。

彼の地元であるカナダ、バンクーバーのホテルで遺体となって発見されたのは、現地時間、7月13日の昼すぎ。今年の初めから薬物依存の治療を受けていたコリーは、4月にリハビリ施設を出たばかりで、今回の死亡の原因にも薬物使用の関連が疑われているが、真相ははっきりしていない。いずれにしても、まだ31歳の早すぎる死である。

照れくさそうな顔で、ドウモアリガトウ

「glee/グリー」でコリーが演じたフィン・ハドソンは、アメフトのクォーターバックながら、歌の才能が見出され、グリー部に入部。メインキャラクターの中でも中心人物である役を、彼は時に熱く、時にとぼけた味わいもにじませながら、直球型の演技と類い稀な歌唱力(単にうまいというのではなく、その歌声が耳に心地よい!)で、多くのファンから愛されてきたキャストでもあった。

素顔の彼も、演じたフィンに近い印象。素直で朴訥(ぼくとつ)という形容詞がぴったりで、人気俳優とは思えない性格が伝わってきた。

「『ドウモアリガトウ』。これが僕の知っている唯一の日本語だよ。覚えたのは、あの有名な曲から。『ドモアリガト、ミスター・ロボット』っていうやつ。こういうコメントって、ありきたりかな…」

やや顔を赤らめ、照れた表情でそう話していたのは、2011年秋、「glee/グリー」の撮影現場で取材した時だった。日本向けのインタビューを受けるということで、自分なりに精一杯の挨拶をしようとしたのかもしれない。その誠実な応対に、場が一気になごんだことを、今でも鮮明に覚えている。

レイチェル役、リア・ミシェルも同席したこのインタビューでは、リアがいかにも“野心満々”の受け答えだったのに対し、コリーはあくまでも穏やかで、一歩引いた謙虚な姿勢。こんな人が、アメリカのショービス界の荒波で生き残っていけるのだろうかと、心配させるほどだった。

大切な家族を失った「glee」はどうなるのか

そんな印象を持っていたから、コリーの薬物治療のニュースが流れたときは、ひじょうに驚いた。と同時に、やはりもともと自分の資質と合ってない世界との葛藤が、予想以上に大きかったのか…という勝手な想像もめぐった。

学校を中退し、ウォルマートの店員、タクシー運転手などを経て俳優となった彼は、「ティーンエイジャーで経験できなかった高校時代を、僕は『glee/グリー』で追体験させてもらってる。キャストやスタッフのみんなとは、家族同然の絆で結ばれているんだ」と、うれしそうに語っていた。

「週末がオフになったりすると、バンクーバーに戻って、友達と遊びに行くのが何より楽しい。冬はできる限り、スノボをやってるよ。ロサンゼルスの自宅ではビデオゲームに夢中になっちゃうことが多いかな」と、インタビュー時には「素直で飾らない言葉」と感じたコメントも、今となっては、彼の寂しさを伝えているようでもある。

コロンビア・レコードとの契約でソロデビューも計画されていたコリー・モンティス。

交際を続けていたリア・ミシェルとの結婚がカウントダウンされ、そして、9月に放映開始予定の「glee/グリー」シーズン5を間近に控えての、あまりに突然の死。

リアや、「家族」と呼ばれたメンバーの衝撃は計り知れない。そして、あの力強い天性のボーカルをもう二度と聴くことができないと思うと、あまりにも悲しい。メインキャラクターを失った人気TVシリーズは、継続自体の論議も含めて、今後、さまざまな波紋を広げそうだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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