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落選組からみるアカデミー賞ノミネート。そして本番の受賞確率は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト

1月15日(木)に発表された、本年度のアカデミー賞ノミネート。ほぼ予想どおりの候補作・候補者に、一部、軽いサプライズが加わる…というのは、例年どおりの順当な結果と言えるだろう。

最多ノミネートは『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』と『グランド・ブダペスト・ホテル』の9部門。続いて8部門が『イミテーション・ゲーム。エニグマと天才数学者の秘密』。そして『6才のボクが、大人になるまで。』『アメリカン・スナイパー』が6部門と続く。

2月22日(現地時間)の授賞式まで、さまざまな予想がされるだろうが(ほぼ順当な結果になると思う)、ここでは、今回、ノミネートから落ちた面々から分析していきたい。

まず作品賞。まさかの落選は『ゴーン・ガール』だった。今年の授賞式ホストであるニール・パトリック・ハリスが出演(怪演!)していることで、授賞式を盛り上げるためにも是非、候補に入ってほしいと思っていた人が多数いるだけに残念な結果に。近年はいろいろ制限が設けられつつあるが、映画会社側から投票者へのプッシュも影響するアカデミー賞。『ゴーン・ガール』の20世紀フォックスは、子会社でインディーズ系作品専門の「フォックス・サーチライト」が今年度、『バードマン〜』『グランド・ブダペスト・ホテル』という強力作品を出しており、ノミネートされても受賞の可能性は少ない『ゴーン・ガール』に力を注がなかった…と、考えられなくもない。「代わり」と言っては失礼だが、ややサプライズのノミネートが『アメリカン・スナイパー』で、これはワーナー・ブラザースの強いプッシュも働いたのではないか。それにしても、もう少しメジャー作品ががんばってほしいと思うのは、ここ数年、いつも思うこと。授賞式の華やかさも変わるのに…。

作品賞受賞予想確率

『6才のボクが、大人になるまで。』 85%

『バードマン〜』 10%

『グランド・ブダペスト・ホテル』 5%

続いて意外だったのは主演男優賞だ。『Selma(原題)』でキング牧師を演じたデヴィッド・オイェロウォや、カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した『ターナー、光に愛を求めて』のティモシー・スポールらが落選してしまった。ただ、今年度のこの部門はもともと激戦だったので、以下の予想受賞者の2人以外は誰が入ってもおかしくなかった。キング牧師の映画はアメリカ人にとっても「特別」なのでオイェロウォの候補は確実かと思われたが、『Selma』は、キング牧師以外の人間模様がアンサンブルのように描かれるので、「主演」という意味で一歩足りなかったのかも。『ハリー・ポッター』シリーズでおなじみのスポールも、イギリス人ということでやや不利だったか。その分、イギリス人からはベネディクト・カンバーバッチがノミネート。このあたりは、スポールより、スター度が高いので授賞式が盛り上がるという、投票者の「計算」が働いたのかも。

主演男優賞受賞予想確率

マイケル・キートン(『バードマン〜』) 70%

エディ・レッドメイン(『博士と彼女のセオリー』) 30%

主演男優賞ほどのサプライズではないが、主演女優賞では、先日のゴールデン・グローブ賞で受賞した『ビッグ・アイズ』のエイミー・アダムスが落選。ただ、ゴールデン・グローブの受賞は「コメディ/ミュージカル部門」だったので仕方ない結果か。とはいえ、男優の方は同部門でゴールデン・グローブ受賞のマイケル・キートンが入っているので、残念というしかない。エイミー・アダムスは、過去にアカデミー賞ノミネートが5回。そろそろ受賞してもいい女優である。そして、この部門、作品賞ほかで完全にスルーされてしまった『ゴーン・ガール』からロザムンド・パイクが候補入り。授賞式当日は、ホストのハリスと何か掛け合いをしてほしい。『ゴーン・ガール』が他部門で無視されたことで、もしかしたら本選ではパイクへの「同情票」が集まる可能性も…。

主演女優賞受賞予想確率

ジュリアン・ムーア(『アリスのままで』) 80%

ロザムンド・パイク(『ゴーン・ガール』) 15%

マリオン・コティヤール(『サンドラの週末』) 5%

そして驚いたのが、長編アニメーション部門。『アナと雪の女王』のように超強力な作品がなかった今年度、本命とされていた『LEG0(R)ムービー』が漏れてしまった。ワーナー・ブラザースは安泰と思って、プッシュが足りなかったのだろうか。まぁ、この部門は受賞したとしても、あまり会社の業績には関係ないのだろうが…。こうしてさらに混戦となったことで、他に主要部門で受賞の可能性が少ないディズニーは『ベイマックス』を強烈にプッシュし始めるだろうし、『かぐや姫の物語』にも大きなチャンスが生まれたと言ってよさそう。日本人にとっても授賞式への大きな楽しみが増えたのは喜ばしい!

長編アニメーション賞受賞予想確率

How to Train Your Dragon 2(『ヒックとドラゴン』の続編) 50%

ベイマックス 20%

The Boxtrolls 15%

かぐや姫の物語 15%

その他、主要部門の予想は

監督受賞予想確率

リチャード・リンクレイター(『6才のボク〜』) 70%

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(『バードマン〜』) 25%

ウェス・アンダーソン(『グランド・ブダペスト・ホテル』) 5%

助演男優賞受賞予想確率

J・K・シモンズ(『セッション』) 95%

他の誰か 5%

助演女優賞受賞予想確率

パトリシア・アークェット(『6才のボク〜』) 95%

他の誰か 5%

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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