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アベンジャーズ韓国、007メキシコ、「沈黙」台湾。日本は……。話題作ロケ誘致の効果

斉藤博昭映画ジャーナリスト
オーストリアの雪山でロケが行なわれた『007 スペクター』

国内での大ヒットと相乗効果を期待して

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』は漢江などソウルの名所が登場するが…
『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』は漢江などソウルの名所が登場するが…

間もなく公開される『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』には、中盤、舞台が韓国に移る。「なぜ韓国?」と、唐突に感じる人もいるかもしれないが、世界的メガヒットを見込めるハリウッドの大作では、撮影が行われた場所も話題になるのは必然だ。ロケ地が有名になれば、そこを目的に訪れる観光客の増加が期待できるだけでなく、撮影期間中は、現地のスタッフが雇用され、主演スターを含む大規模なロケ隊が滞在することで、多大な経済効果が見込まれる。そして何より、ロケが行われた国で作品への注目度がアップし、公開時には大ヒットの可能性がある……はずである。

もちろん、どんなケースも確実に大成功につながるわけではない。

中国

現在、最も「ロケ地効果」の可能性が高いのは、中国だろう。日本を抜いて、世界2位の映画興行成績をキープし,ハリウッド大作への関心は天井知らずの伸び。中国での公開本数の制限はあるものの、当然、ハリウッド側も中国の観客が喜びそうな題材に力を入れている。ここ2〜3年、メジャースタジオの企画段階のプロジェクトには「中国絡み」が意識されているものが多いと聞く。

近年、その最大の成功例といえば

トランスフォーマー/ロストエイジ

重慶や香港でロケが行われ、中国企業とのタイアップなどで「米中合作映画」となった2014年の同作は、中国での興収が北米興収を上回るという、信じられない大ヒットに! 19億7900万元(約370億円)は当時の中国最高記録(現在は『ワイルド・スピード SKY MISSION』に破られている)だった。

その他、近年の例では『007 スカイフォール』の上海から、『ブラックハット』の香港まで、ハリウッドのアクション大作が中国ロケを行なうのは常態化しつつある。

台湾

同じくロケ地効果があったのは、台湾だ。

昨年公開されたスカーレット・ヨハンソン主演の『LUCY/ルーシー』は、台北で物語が始まり、作品のほとんどが台湾で展開される。その効果は絶大で、台湾では年間第2位の興収を稼ぐ作品になった。先日撮影が終わったマーティン・スコセッシ監督、遠藤周作原作の『沈黙(原題)』は、江戸時代の日本を台湾ロケで再現。浅野忠信ら日本人キャストも出演しているのに……である。台湾フィルム・コミッションの誘致活動が見事に成功した例である。

メキシコ

大統領が拠点とする国立宮殿もある「ソカロ」は世界最大級の広場(撮影筆者)
大統領が拠点とする国立宮殿もある「ソカロ」は世界最大級の広場(撮影筆者)

大統領の拠点となる国立宮殿もあるソカロは、モスクワの赤の広場よりも巨大]]そのほか、最近、ロケ地招致で話題になったのが『007 スペクター』のメキシコ。同国の観光大臣がロケ地の誘致に積極的に動き、奨励金がスタジオ側に入ったという噂も……。その額は1400万ドル(約16億円)とも2000万ドルとも言われている。プロデューサーたちはあくまでも「脚本ありきで、それに合ったロケ地を選んでいる」と話していたが、メキシコ人女優のステファニー・シグマンがボンドガールの一人に抜擢され、『007』シリーズ最大のスケールという触れ込みのオープニングシーンがメキシコシティで撮影された。有名な「死者の日」のパレードを1500人ものエキストラによって再現。観光地としても知られる、世界最大の広場「ソカロ」が撮影のために封鎖され、ヘリコプターも使った大がかりなアクションが展開されたのである。メキシコシティがここまで全面的なバックアップをしたのは、地元の映画産業からの多大な雇用と、経済効果が見込めるから。実際に、筆者も含めた取材用のマスコミも集まるなど、その効果は幅広い。そして本作の公開が、「死者の日のパレード」の本番(11月)と近いことから、観光への影響も大きいだろう。

韓国

そして冒頭でもふれた『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』。

政府機関も積極的に動いてのロケ誘致が成功。韓国では、公開3週間で600億ウォン(約66億円)の興収を上げ、「最短最多観客動員記録」なるものを更新。大ヒットしている。しかし、2週間にわたって主要道路を封鎖するなど、大がかりなソウル・ロケが行なわれたわりに、完成した映像から、街の魅力が伝わっているかどうかは疑問。アクション演出がスピーディで、小刻みな編集なので、背景にまで目が行かない……というのが正直なところ。観光への効果はあまり望めそうはない。

日本

では日本の場合は、どうだろう。

今年公開され、日本でもシリーズ最大ヒットを記録した『ワイルド・スピードSKY MISSION』は、東京のパートも実景だけが使われ、俳優の出ているシーンは残念ながら東京で撮影されていない。

本格的な日本ロケが行なわれ、記憶に新しい作品といえば『ウルヴァリン:SANURAI』。真田広之ら日本人俳優も活躍したが、日本での興収は8.1億円と、スピンオフ作品とはいえ、『X-MEN』シリーズの流れの中で、目立った数字は上げられなかった。以下、シリーズの日本での興収推移。

X-メン 18.5億円

X-MEN2 18億円

X-MEN:ファイナル・ディシジョン 15.3億円

ウルヴァリン:X-MEN ZERO 8.8億円

X-MEN:ファースト・ジェネレーション 7億円

ウルヴァリン:SAMURAI 8.1億円

X-MEN:フューチャー&パスト 10.3億円

ロケは行ってないにしても、『パシフィック・リム』(興収14.4億円)や『GODZILLA ゴジラ』(興収31.4億円)の数字を見るにつけ、せっかく日本が舞台になったのだから、もっと大ヒットしてほしかった気もする。アニメーションの『ベイマックス』(興収90億円超)は特大ヒットしたが、舞台はあくまでも東京を“ヒントにした”街だった。

「日本ロケ」、「日本が舞台」というだけで確実に大ヒットというわけにいかない、ハリウッド大作にとっての日本市場。かつて『ブラック・レイン』(1989)では、新宿・歌舞伎町での撮影許可がどうしても下りず、ロケ地を大阪に変更。『ラスト サムライ』(2003)がニュージーランドなどで撮影された過去もあるが、現在は日本各地のフィルム・コミッションも積極的だし、海外の観光客が激増している好状況でもある。さまざまなハードルはあるにしても、ハリウッド大作の日本ロケ誘致には、今後さらなる期待をかけたい。

『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』

7月4日(土)全国ロードショー (c) Marvel 2015

『007 スペクター』

12月4日(金)全国ロードショー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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