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『スター・ウォーズ』余波? 巨匠たちの新作が軒並み年明け公開に

斉藤博昭映画ジャーナリスト
リドリー・スコットの話題作『オデッセイ』は2月まで待たなくては…

これから年末にかけ、映画界は、2015年を締めくくる注目作『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』がどの程度の大ヒットとなるかが話題だが、本作がお正月映画として公開されるため、ライバルとなりそうな大作は早々と同時期公開を回避。『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』も当初は年末公開の予定だったが、一気に前倒しして夏に公開。その結果が吉と出て、満足のいく興収を記録した。ライバルとなる洋画の大作は『007 スペクター』くらいだが、『スター・ウォーズ』より2週早い公開で、しかも先行上映もあり、本命不在の間に稼いでしまおうという算段だ。邦画の大作も、客層がかぶらない『母と暮せば』、『杉原千畝 スギハラチウネ』、『海難1890』といった骨太な感動作がラインナップされているし、アニメも『妖怪ウォッチ』の新作や、『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』など、明らかにターゲットが違う。

『スター・ウォーズ』一本かぶりの年末公開をあえて避けたせいか、2016年の年明けは、その名前で観客を呼べる巨匠監督たちの新作ラッシュとなった。もともと「お正月第2弾」といわれるその時期は、大作系で満腹感を味わった観客のための、B級的おもしろさがある作品や、じっくり味わえる秀作が公開されるケースが多かったのだが、2016年はその傾向が別方向へ行っている。また、近年、アカデミー賞に絡みそうな作品は、日本であえて2〜3月に公開が設定されるケースも多い。巨匠たちの作品が年明け公開というのも納得だが、それにしても2016年は多すぎる。すでに北米ほか世界各国では年内に拡大公開されており、本来なら日本でも何本か年内公開されてもよさそうなのに、あえて『スター・ウォーズ』との激突を回避しているようでもある。

公開日/監督名/作品名を具体的に挙げると…

'''1/8公開

スティーヴン・スピルバーグ『ブリッジ・オブ・スパイ

1/8公開

ギレルモ・デル・トロ『クリムゾン・ピーク

1/16公開

ロン・ハワード『白鯨との闘い

1/23公開

ロバート・ゼメキス『ザ・ウォーク

2/5公開

リドリー・スコット『オデッセイ

『クリムゾン・ピーク』
『クリムゾン・ピーク』

と、このように、2016年を迎えると、ほぼ毎週に近いサイクルで巨匠の新作が公開される。ギレルモ・デル・トロはオタク系巨匠ということで異色だが、残り4人の新作は、内容も本格派の感動モノやアクションで、年末公開の「お正月映画」で十分、勝負できる仕上がりなのに…。

このうち『白鯨との闘い』、『ザ・ウォーク』、『オデッセイ』は3D版も公開され、それぞれ「巨大クジラとの海洋アクション」、「超高所での綱渡り」、「火星の大地や、宇宙での無重力」と、どれもが3D、あるいはIMAXの巨大スクリーンで「体感」したい映画になっている。年末は3DIMAXが『スター・ウォーズ』に占拠されるので、退避は当然の選択だったのかもしれない。

『ブリッジ・オブ.スパイ』や『オデッセイ』は年末から始まるアメリカでの賞レースに絡む可能性もあり、アカデミー賞ノミネート発表後の日本公開が功を奏するか。

いずれにしても、年末、『スター・ウォーズ』の大にぎわいに興味のない映画ファンは、年が明ければ見ごたえのある力作、話題作がたっぷり控えているので、うれしい悲鳴を上げることになるだろう。

写真は『オデッセイ』より

(c) 2015 Twentieth Century Fox Film

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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