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「日本人枠」ではない? バットマン vs スーパーマンでTAOが挑むハリウッドでの新たな道筋

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』のNYプレミアでのTAO(写真:REX FEATURES/アフロ)

アメコミ界の2大ヒーローが「直接対決」する『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』が、全世界公開を前に全貌を明らかにした。衝撃的なクライマックスなど、これから観る人のためにネタバレできない点が多数なので、ここでは日本人キャスト、TAO(Tao Okamoto/岡本多緒)について書いておきたい。

堂々とした演技でスクリーンに登場

出演シーンはそれほど多くはないにしろ(それでも予想以上に、いっぱい出てきました!)、スクリーンに登場した瞬間から気になる存在となっていた。最初にアップになるシーンでのミステリアスな表情。衣装が強調する美しいスタイルと、モデルで磨いた身のこなしの艶(なまめ)かしさ。まわりのキャストに一歩も引けをとらない堂々とした演技で、TAOは、2度目のハリウッド大作も見事にこなした。

これまでも日本からハリウッドに挑み、数々の作品に出演してきた俳優は何人もいる。近年、男優で最も成功した例は渡辺謙であり、彼とともに『ラスト サムライ』をきっかけに、真田広之も主な活動拠点をアメリカに移し、公開中の『Mr.ホームズ 名探偵最後の事件』や、TVシリーズなど出演作が途切れない活躍をみせている。

女優に目を移すと、菊池凛子工藤夕貴の顔が思い浮かぶだろう。その主な海外出演作を挙げると

菊池凛子

2006『バベル』アカデミー賞助演女優賞ノミネート

2008『ブラザーズ・ブルーム』日本劇場未公開

2013『パシフィック・リム

2013『47RONIN

2014『トレジャーハンター、クミコ』初の海外主演作。インディペンデント・スピリット賞主演女優賞ノミネート

工藤夕貴

1989『ミステリー・トレイン

1994『ピクチャーブライド

1999『ヒマラヤ杉に降る雪

2005『SAYURI

2007『ラッシィアワー3

2009『リミッツ・オブ・コントロール

これに対し、TAOのアメリカでの出演作は

2013『ウルヴァリン:SAMURAI

2015「ハンニバル」(TVシリーズ)

2015「高い城の男」(TVシリーズ)

2016『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生

と、わずか3年での急速な活躍ぶりに目を見張る。

『ウルヴァリン〜』で、いきなりヒュー・ジャックマンの恋の相手という大役を射止め、今回の『バットマン〜』出演で、「マーベル」「DC」というアメコミの2大ブランドの大作に立て続けに参加したのは、快挙と言うしかない。

とくに「日本人」である必要がない役

注目してほしいのは、『バットマン〜』でのTAOの役柄だ。役名はマーシーで、ジェシー・アイゼンバーグが演じるレックス・ルーサー(本作でのメインの悪役)の秘書。とくに「日本人」という役ではない。渡辺謙にしろ、工藤夕貴にしろ、菊池凛子にしろ、彼らが演じてきた役は、あくまでも「日本人」。今回のTAOは「ひとりの女性のキャラクター」という点が、ハリウッド進出した日本人俳優としても異色だった。

セリフの英語も、これまでの日本人俳優の初期とは違って、完全にネイティヴな発音。14歳でモデルデビューし、世界のコレクションで活躍、イギリスへの留学経験もある彼女は、『ウルヴァリン〜』の時から完璧に英語をこなしていた。『ウルヴァリン〜』でインタビューしたときの彼女は、野心メラメラという印象ではなく、どちらかと言えば、天然系で、のんびりした話し方。「太れないのが悩み」という、言う人によっては嫌味に聞こえるコメントも、真剣に悩んでいる様子が伝わってきた。こんな人が、ハリウッドの競争社会で生きていけるとは…と、改めて不思議な気持ちにもなる。

『トランスフォーマー/ロストエイジ』のリー・ビンビン、『X-MEN:フューチャー&パスト』のファン・ビンビン、『オデッセイ』のチェン・シュー、この夏公開の『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』のアンジェラベイビーら、中国圏スター女優のアクション超大作への起用は、中国市場をにらんだハリウッドの戦略とも無縁ではない。そういった状況で、日本人俳優がハリウッド大作で、しかも日本人という役に関係なく出演するというチャンスは、なかなか訪れるものではない。

ハリウッドが「多様性」を目標にしつつも、アジア系の俳優にとっては、まだまだ高いハードルがある。TAOのキャリアも、これからが正念場となるだろう。

しかし、「日本人」「アジア系」という枠で語ることにあまり意味がない『バットマン〜』でのキャラクターを彼女が演じたことは、大役ではないとはいえ、うれしいサプライズだった。

バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生

3月25日(金)、全国ロードショー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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