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来日会見で見せた、ディカプリオの変わらない「真摯さ」、そして失われた「やんちゃ」

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

レヴェナント:蘇えりし者』で悲願のアカデミー賞主演男優賞を受賞したレオナルド・ディカプオが、その喜びが冷めやらぬまま、作品のプロモーションで来日した。記者会見では、レオ自身も「15回目?」「10回目?」などと来日回数が数えきれないと明かし、プロモーションだけでなく、プライベートでも日本を訪れ、楽しんでいるようだ。

15分遅れて登壇したレオだが…

通常、大物スターの日本での記者会見となると、時間どおりに始まることが多い。その後にも、分刻みできっちり取材などが入っているからだ。

しかしこの日のレオは、マスコミの「今か、今か」という熱気を高めるかのように、約15分遅れて、会見場に姿を現した。

これで思い出すのが、今から14年前(2002年)、『ギャング・オブ・ニューヨーク』で来日した時のことである。当時、レオは28歳

同作でも、当初、アカデミー賞主演男優賞有力と騒がれていたレオ(結局、共演者のダニエル・デイ=ルイスが主演でノミネートされる、という屈辱を味わった)。来日プロモーションは賞レース前だったので、初オスカーへの期待もあり、来日ニュースも大きく報道されていた。

昼過ぎに始まる記者会見の直前に、約10媒体ほどの合同インタビューが行われ、筆者もそこに出席したのだが、待てど暮らせど、レオは姿を現さない。インタビュー時間は50分だが、刻一刻と時間は過ぎていく。映画会社からは「次の記者会見は時間が決まっているので、終了時間は厳守」という、非情なお達しが…。どうやらレオは、まだ部屋にいたらしく、「いま、●階でエレベーターに乗りました」などという担当者の声が漏れ聞こえてくる。

そして、ようやくレオが取材部屋にお出まししたのは、インタビューが残り10分になった頃。明らかにその顔は「いま、起きました〜」という状態。まぁ、前日の到着で時差ボケもあるだろうし、楽しい宴で羽目を外したのだろうと、その場にいる全員が察したのである。

案の定、3人ほど質問したところで、虚しく「インタビュー終了」の指令。しかし、その時である。

レオ「ちょっと待って、全員、質問してないでしょ? ちゃんとインタビューしようぜ

まさにツルの一声! 映画会社は逆らえません。われわれジャーナリストは、取材に対するレオの真摯さに感謝するばかり。当初の長さではないものの、しっかりとインタビューができたのである。当然、記者会見は遅れたのだが、そこでもレオはきっちりと質疑応答。会見やインタビューは早めに終わらせたいスターが多いなか、彼の態度は、われわれジャーナリストの目にもカッコよく映るのであった。

ま、キミが寝坊さえしなけりゃ、何も問題なかったんだけどね。

こうした「やんちゃ」な行動も、20代だったからだろう。

熱弁の陰に、一抹の寂しさも

その後、何度も取材の機会を経て、2016年の来日会見。15分遅れて始まったものの、今回もきっちりと、むしろ予定の時間をさらにオーバーして、レオは熱弁をふるってくれた。『レヴェナント〜』という作品との出会い、壮絶を極めた撮影、オスカーの重み、そして地球環境問題まで、ひとつひとつの答えを噛みしめるように、じっくりと…。

そこには、つねに取材に真摯だった、変わらないレオの姿があった。しかし、14年前の「二日酔い」の顔は、もう二度と見ることはできない…という一抹の寂しさを感じたのも事実である。

『レヴェナント:蘇えりし者』

4月22日(金)、全国ロードショー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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