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カップヌードルCM中止で思い出す、あの佐村河内氏は今どうしているのか…の問題作

斉藤博昭映画ジャーナリスト
この記者会見の後、沈黙を守っている佐村河内守氏だが…(写真:アフロ)

日清カップヌードルのCMが放映打ち切りとなり、その是非についてさまざまな意見が飛び交っているが、最近の社会風潮を鑑みれば、こうした波紋は想定内。覚悟のうえで、このようなCMを製作したわりには、弱腰な対応だった気もするが、もしかしたら、放映中止までもが予想済みだったかもしれない。とりあえず、CMとして社会的話題になったのだから。

CM出演者の一人、音楽教師役の新垣隆氏の「二人羽織」はナイスアイデアだが、かなりブラックだった。“羽織られている”対象が、佐村河内守氏なのは明らかで、本人はこのCMを、どんな気持ちで受け止めたのだろう。というのも、ドキュメンタリー映画『FAKE』には、佐村河内が、新垣が出演するTV番組を自宅で観るシーンが何度となく出てくるからだ。その表情からは、憎しみ、悔しさ、呆れなど、さまざまな感情が読み取ることができる。

6月に劇場公開される『FAKE』は、佐村河内守を追ったドキュメンタリーだ。2014年の、あの大騒動、記者会見の後、まったくメディアに姿を現さなくなった彼に密着している。監督は、オウム真理教に迫った『A』(1998)などのドキュメンタリー作家、森達也。タブーとされる題材に肉薄し、賛否両論を起こす作風で知られる彼が、佐村河内の自宅を中心に彼の素顔をあぶり出していく。

基本的に、カメラは佐村河内を中心に回っていくので、彼の「言い分」を伝える構成。

マスコミの取り上げ方、新垣氏の裏切り発言など、佐村河内が森監督に心を開いていくに従って、記者会見では言えなかった本音がじわじわ出てくる。素顔で語られる言葉は、当然のごとく、めちゃくちゃ面白い。しかし同時に、やはりこの佐村河内という人、どこか心に深い闇を抱えているのでは…という「怪しさ」が要所、要所で垣間見える。

自宅には、彼を取材するジャーナリストや、番組への出演を打診するTV関係者なども訪れ、そこでもカメラは回される。「感音性難聴」の彼が、どのように音階やメロディを表現するのか? 自身の真実を語るため、訪問者に見せる独特な音楽表現など、「???」の後に、思わず笑っちゃう瞬間も何度かあったりして、佐村河内守という人格への興味がどんどん高まっていく構成が見事だ。

タイトルの『FAKE』=偽装、インチキが、意味するのは何か? その答えは、観客それぞれに委ねられるが、クライマックス、そしてラストシーンを観ると、驚き+モヤモヤ感+快感、という異様な感覚に悶絶するのは間違いない。

カップヌードルCMの出演者や、五輪エンブレム問題、さらにバドミントン選手の違法賭博など、世間の悪評で「さらし者」になった人たちが、その後、どんな生活を送ることになるのか。その一端を知るうえでも必見のドキュメンタリーであり、2016年の日本映画を代表する問題作になりそうだ。

『FAKE』

6月4日(土)より、ユーロスペースにてロードショー、ほか全国順次公開

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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