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スカヨハ批判を軽くしたい? ハリウッド版『攻殻機動隊』に福島リラが参加決定

斉藤博昭映画ジャーナリスト
日本とハリウッドでキャリアを積む福島リラ(写真:長田洋平/アフロ)

2017年4月の全米公開に向けて、着々と準備が進んでいる、ハリウッド版の『攻殻機動隊(Ghost in the Shell)』。このほど、福島リラが新たなキャストとして発表された。

ビートたけしが荒巻課長役を演じ、すでに彼もニュージーランドでの撮影に参加しているが、いまだに物議をかもしているのが、主人公、草薙素子役をスカーレット・ヨハンソンが演じる点だ。福島リラはどの役を演じるかは未発表だが、彼女がキャスティングされたことで、「それなら最初から、リラに草薙をやらせればよかったのでは?」という声さえ上がっている。

福島リラといえば、2013年公開の『ウルヴァリン:SAMURAI』で、ヒュー・ジャックマンを相手に激しいスタントもこなし、アクション俳優としての素養も十分。その後、TVシリーズの「ARROW/アロー」のカタナ役でもその身体能力を発揮し、ハリウッドでのキャリアも着々を積み重ねている(『テラフォーマーズ』など日本映画にもコンスタントに出てますが)。

とはいえ、スカーレット・ヨハンソンと福島リラを比べると、世界マーケットにおける知名度は雲泥の差。スカヨハの座を、アジア人女優に譲るという選択は、不可能と言っていい。しかし、今年のアカデミー賞でも大きく取り上げられたように、「人種問題」はハリウッドの中でもじわじわと波紋を広げ、スタジオ側もそれを平気で無視できない状況。他の人種の役を白人スターに演じさせる、この「ホワイトウォッシング(whitewashing)」は、昨年、全米で公開されたキャメロン・クロウ監督の『アロハ(原題)』で、ハワイと中国の血を引くヒロインをエマ・ストーンに演じさせ、監督が謝罪するという事態も引き起こした。日本でも大ヒットした『オデッセイ』でも、原作では韓国系アメリカ人の役を白人に演じさせる、些細なケースも大きく報道されたりしている。

この批判を避けるため、今回の『攻殻機動隊』では、スカヨハの顔をCGでアジア人っぽく変える技術を導入する…などと、とんでもないアイデアも出されたようだが、それがニュースに流れると、さらなる批判が巻き起こったという。そりゃ、当然でしょう。今回の福島リラのキャスティングも、少しでも日本人を増やして、批判を薄めたいというスタジオの思惑が見えなくもない。

原作の国、日本では、そこまでスカヨハ批判は起こっていないし、逆に『攻殻機動隊』を彼女で観てみたいファンもいるだろう。監督を務めるのが、『スノーホワイト』のルパート・サンダースなので、はっきり言って、娯楽志向の仕上がりになるのは間違いなく、原作ファンも気楽に考えているようでもある。たけしに、桃井かおり、さらに福島リラの出演が決まったことで、素直にどんな仕上がりになるのかに期待を高めたい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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