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デッドプールの素顔は村上春樹ファン。苦節11年、最高の当たり役に号泣も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

間もなく6月1日に日本でも公開される、無責任で自由すぎるヒーロー像が話題の映画『デッドプール』。演じるライアン・レイノルズに、肉体作りについて質問したとき、こんな答えが返ってきた。

役作りは別にして、ふだんのトレーニングはウォーキングやランニングがメインかな。

日本には、フルマラソンを何度も走った作家がいるよね?ハルキムラカミだ。すばらしいよ。彼の「走ることについて語るときに僕の語ること」は僕の愛読書なんだ。走るときに何度も読み返している。

出典:ライアン・レイノルズへのインタビューより

演じたデッドプールと同じく、早口でまくし立てるように、そう語ったライアン。米ピープル誌では2010年に「最もセクシーな男」に選ばれ、これまで華やかな女性遍歴(アラニス・モリセット、スカーレット・ヨハンソン)があったことで、どこかチャラい印象も強かった彼が、村上春樹を愛する一面を告白したのは意外だった。

ライアン自身、フルマラソンを走ったこともあり、2008年のNYシティマラソンでは3時間50分で完走している。ライアンがマラソンに挑んだ理由は、昨年、パーキンソン病で亡くなった父親がきっかけだったという。父の闘病する姿を見て、自分も最も手ごわい敵と闘いたいと決意し、それがマラソンだったという。最も手ごわい敵とは「自分自身」。自分の苦しみに打ち克つことで、父への思いを表現したかったのだろう。このあたりで、村上春樹の著作にも後押しされた部分が大きいのではないか。

自分に打ち克つ

それは今回の『デッドプール』映画化でも言えることだ。ライアンがデッドプール役を打診されたのは、今から11年前にさかのぼる。スタジオの重役から「君にぴったり」と勧められ、原作を読んだ彼は、あまりに自分との共通点が多いことに気づき、「これこそ、やりたい役」と大乗り気になった。しかし、重役の異動で企画は宙ぶらりん状態に。2009年公開の『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』で、ライアンはようやくデッドプール役を演じるチャンスを得るも、おしゃべりキャラのはずが、口が縫合されるなどイメージを改変させられ、コミックファンの評判もさんざんだった。その後、ライアンは2011年にアメコミヒーロー『グリーン・ランタン』を演じたが、こちらも評判は最悪……。

それでもデッドプールの夢をあきらめなかったライアンは、監督と脚本家と何年も時間をかけて脚本作りに没頭し、アクション大作としては5800万ドルという低予算(『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』などは2億5000万ドルです!)で製作にこぎつけた。そして2016年、『デッドプール』は公開されると、超斬新なヒーロー像が大受け。全米では20世紀フォックス映画作品として最高のオープニング記録を更新するなど、異例の大ヒットとなったのである。完成作を観たライアンは、感動のあまり号泣してしまったとか。本当にイイやつ!

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こうしてライアン.レイノルズは、俳優人生でも最高の当たり役を、自分に打ち克つことで手にすることになった。

現在、妻で女優のブレイク・ライヴリーが2人目の子どもも出産間近ということで、結婚生活も安泰。プライベートもキャリアも最高の時間を過ごしているライアン。

『デッドプール』の公開前に日本に行きたいという願いはなかわなかったが、今頃、村上春樹を読み返しながら、どこかでランニングをしていることだろう。

最後に、デッドプールとライアン・レイノルズの共通点は以下のとおり。

カナダ出身

・身長も同じ6.2フィート(約188cm)

・本名のイニシャルが同じアルファベット3つ

ライアン・ロドニー・レイノルズ(RRR)

デッドプール=ウェイド・ウィンストン・ウィルソン(WWW)

・原作の設定と、現在のライアンの年齢がほぼ同じ

早口で、お調子者(本人談)

『デッドプール』

6月1日(水)より、TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー

(c) 2016 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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