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上映見送りのリスクも抱えつつ……この夏、ハリウッド大作の「中国濃度」は、またもや急上昇中

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ゴーストバスターズ』はチャイニーズ・レストランの2階を根城にするのだが…

今年の前半、日本でも予想以上の大ヒットを記録した『オデッセイ』では、火星に取り残されたマット・デイモンの主人公を救うべく、後半、意外な助っ人が現れた。中国国家航天局だ。彼らの開発したロケットが最終的に救出の難関ミッションで重要な役割を果たすことになったのだが、このようにハリウッド大作における「中国」の役割は、ここ数年、加速するばかり。

『オデッセイ』における中国の役割は原作どおりとはいえ、現在、日本で公開中のものを含め、この夏の話題作にも、中国の要素が際立った作品が目立っている。北米に次いで、世界第2位の興行収入を獲得し、2017年にはその座を逆転して世界一になる可能性もある中国市場。中国の観客にアピールするために、さり気なく、あるいは、あからさまに中国色を強めるハリウッドの戦略は「常識」として定着したと言っていい。

ここ数年の例でも、『ゼロ・グラビティ』(2013)では中国の人工衛星が重要な役割を果たし、『パシフィック・リム』(2013)では香港で大決戦が展開。『トランスフォーマー/ロストエイジ』(2014)には北京の人造トランスフォーマー製造工場が登場し、クライマックスの戦いは香港とその周辺という設定だった。

このブームが顕著に表れているのが、現在の2016年。日本の夏をにぎわせるハリウッド作品にも、次々とその例が見てとれる。

インデペンデンス・デイ:リサージェンス

(公開中)

月面に作られた人類の基地は、司令官が中国系で、基地内でもあちこちで中国語が交わされている。司令官の姪(演じるのは上海出身で香港で活躍中のアンジェラベイビー)に想いを寄せる隊員が、彼女と仲良くなるために中国を学ぼうとしたりも。

アリス・イン・ワンダーランド/時間の旅』(公開中)

主人公のアリスが4年にもわたる大航海から帰ってきたというストーリー。航海の途中で立ち寄った中国の文化に魅せられたというアリスは、ワンダーランド(アンダーランド)での冒険でも、中国風のドレスを着続けている。

ウォークラフト』(公開中)

直接の中国ネタは出てこないものの、香港をメインに活躍するダニエル・ウーがメインキャストの一人として出演(外見はまったく別物のキャラクターだが…)。全米公開の数字は思わしくなかったにもかかわらず、中国では爆発的大ヒットとなった。

ゴーストバスターズ』(8/19公開)

ゴーストバスターズがオフィスを構えるのが、NYのチャイニーズレストランの2階。当然、中国語が出てくるし、バスターズの一人が、ワンタンスープが大好きなど料理のネタも多数。

グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(9/1公開)

全編の約半分くらいが、マカオが舞台となって展開する。マカオにあるIT企業「オクタ社」の研究所から、ある重要なチップを盗むことが主人公たちのミッションに。マカオのカジノや怪しげなマジックの店なども登場し、ジェイ・チョウら中国語圏の人気スターも出演。

こうしてまとめると、約2ヶ月の間で、これだけ中国要素が出てくるハリウッド大作が公開されるのは、ちょっと異例だと驚く。明らかに中国市場へのアピールが続いているわけだが、残念なことに、このうち、『ゴーストバスターズ』は中国での上映が見送られる見込みとなってしまった。その理由は「カルトや迷信を促す作品」(Hollywood Reporterより)ということだが、『ゴーストバスターズ』のテーマがそこにないことは明らか。中国ではハリウッド作品の公開本数が限られていることや、1984年の『ゴーストバスターズ』が中国では公開されていないので、知らない観客も多い……など、この決定にはいくつかの理由が絡んでいそう。何はともあれ、せっかく中国の観客に向けたネタを入れ込んだのに(もちろん、その目的だけではないだろうが)、中国で上映できないというのは、スタジオ側にとっても残念な事態だろう。

そして年末も、この流れは続きそう。『スター・ウォーズ』のスピンオフ作品である『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(12/16公開)には、ドニー・イェンチアン・ウェンら中国語圏のスターがキャスティングされている。ドニーは、言わずと知れた香港アクションの“レジェンド”であり、チアン・ウェンは中国を代表する俳優の一人で、『鬼が来た!』などで監督としても有名。キャラクターやアクションには日本の時代劇へのオマージュも込められているようだが、彼らの出演が中国のマーケットに大きな影響を与えるのは間違いない。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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