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日本でも特大ロケットスタートの『ファインディング・ドリー』で、気になるピクサーの今後

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ファインディング・ドリー』ハリウッドでのプレミアより(写真:ロイター/アフロ)

すでに北米では、アニメーション作品として史上最高の興行収入を記録している『ファインディング・ドリー』が、いよいよ先週末から日本でも公開。週末から祝日を含めた3日間で11億7418万円という最高のロケットスタートを記録した。この夏休みの王者を狙う勢いである。

ディズニー/ピクサー作品という安心ブランドであり、あの『ファインディング・ニモ』の続編。しかも夏にぴったりの海が舞台ということで、この勢いは予想どおり。しかし、ここ数年のディズニー/ピクサー作品の成績は、作品によってかなり波があるのも事実だ。

改めて第1作の『トイ・ストーリー』から、日本での興行収入を公開時期とともに振り返ってみると……。

トイ・ストーリー(1995/1996)春休み→18億円(※)

バグズ・ライフ(1998/1999)春休み→19.6億円

トイ・ストーリー2(1999/2000)春休み→34.5億円

モンスターズ・インク(2001/2002)春休み→93.7億円

ファインディング・ニモ(2003)お正月→110億円

Mr.インクレディブル(2004)お正月→52.6億円

カーズ(2006)夏休み→22.3億円

レミーのおいしいレストラン(2007)夏休み→39億円

WALL・E/ウォーリー(2008)お正月→40億円

カールじいさんの空飛ぶ家(2009)お正月→50億円

トイ・ストーリー3(2010)夏休み→108億円

カーズ2(2011)夏休み→29.6億円

メリダとおそろしの森(2012)夏休み→9.5億円

モンスターズ・ユニバーシティ(2013)夏休み→89.5億円

インサイド・ヘッド(2015)夏休み→40.4億円

アーロと少年(2015/2016)春休み→16億円

ファインディング・ドリー(2016)夏休み→予想:80〜100億円???

年代2つは、北米公開年/日本公開年

※は当時の配給収入からの概算

春休み/夏休み/お正月と、日本での映画興行の書き入れ時に照準を合わせて、大ヒットを狙うディズニー/ピクサー作品。とくに近年は夏とお正月が定番となってきた。数字を眺めると『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』の時代を最初の頂点として、その後は、数字の上下が激しくなっていることがわかる。作品のテイストによって人気が異なるのは、ある意味、妥当な結果と言えるだろう。

しかし、ここ数年は明らかにシリーズものが大ヒットにつながっている。『カーズ2』の数字は低かったものの(公開の2011年は、東日本大震災もあった)、『トイ・ストーリー3』、『モンスターズ・ユニバーシティ』の数字はその前後の作品と比べると圧倒的である。

この数字の推移は、「ピクサーアニメ」という神通力が薄まっていることの証明かもしれない。

『カールじいさんの空飛ぶ家』あたりまでは、「ピクサー」といえば、オリジナルの発想で、想像もできなかった新しい世界/ストーリーを創り出し、それがアニメーションならではの映像世界で完成され、観客を驚かせる、という印象が強かったが、その公式がここ数年は少しずつ弱まってきた感は否めない。『インサイド・ヘッド』は独自の世界観が高く評価されたものの、『メリダとおそろしの森』『アーロと少年』あたりは爆発的なブームを起こすことはできなかった(作品の仕上がりは素晴しいのに!)。

いっぽうで『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『ファインディング・ニモ』『カーズ』は、1作目の大ヒットでキャラクター・ビジネスも確立。ディズニーのテーマパークやディズニーストアなどを通じて、リアルタイムで映画を観ていない子どもたちにもキャラクター人気を定着させ、映画2作目への期待を高めさせていった。そのサイクルが見事に成功している。

『レミー』『ウォーリー』『カールじいさん』あたりは、公開の時点では大人気で迎え入れられても、その後、キャラクター・ビジネスを爆発的に成功させ得る作品ではなかった。

そこへ来て、『ファインディング・ドリー』の驚異的なメガヒットである。「おもちゃ」や「モンスター」「車」「海の生き物」という、子どもたちも素直に飛びつくキャラクターの宝庫をシリーズ化させ続ける……。その点を今後もピクサーは重視せざるをえないのだろうか。

この後のピクサーのラインナップは、オリジナル作品(メキシコの「死者の日」を描く『Coco(原題)』など)もあるにはあるが、やはりシリーズものが目立つ。『カーズ』3作目、『トイ・ストーリー』4作目、『Mr.インクレディブル』2作目、噂の段階だが『ウォーリー』の続編もあるとかないとか。

アナと雪の女王』『ベイマックス』『ズートピア』と、ディズニースタジオによるアニメーションの大成功作は、どれもオリジナルのものばかり。これらに負けない、爆発的ブームを巻き起こすピクサーのオリジナル新作が現れることを期待したい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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