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「本家」じゃないと成功は難しい。ディズニー不朽アニメの実写化は加速するばかり

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ジャングル・ブック』より

8月11日、日本でも公開が始まる『ジャングル・ブック』。このタイトルからわかるとおり、ディズニーの名作アニメーションの再映画化だ。

『ジャングル・ブック』は、人間の少年モーグリが、ジャングルでオオカミの一家に育てられる物語。19世紀末に発表されたラドヤード・キップリングの短編が原作で、1967年、ディズニーがアニメーションで映画化。あのウォルト・ディズニーが生前最後に関わった長編アニメで、半世紀もの間、世界中で愛されてきた。

今回はその不朽の名作が実写化(とは言っても、モーグリ少年の他は大部分がCG)されたわけだが、このように、ディズニーのクラシックアニメが実写映画化されるパターンが、ここ数年、ひとつのブームになっている。

アリスが決定づけた実写化の流れ

クラシックアニメの実写化の先がけになったのは、『101匹わんちゃん大行進』(1961)→『101』(1996)というパターン。2000年には続編の『102』も製作された。

CG技術の急速な進歩によって、ファンタジー要素も強いディズニーアニメの世界が、違和感なく実写で再現できるようになったわけで、『101』以上に、この流れを加速させたのが、『ふしぎの国のアリス』(1951)→『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)だろう。

このブームは、『眠れる森の美女』(1959)→悪役を主人公にした『マレフィセント』(2014)、『シンデレラ』(1950)→『シンデレラ』(2015)へと続いていく。

実写化作品の日本での興行収入を振り返ると

アリス・イン・ワンダーランド118億円(2010年年間総合1位)

マレフィセント65.4億円(2014年実写洋画1位)

シンデレラ57.3億円(2015年実写洋画2位)

と、驚異的なヒットなのが一目瞭然。

全米で3億6000万ドルという数字を叩き出した『ジャングル・ブック』が、日本でどんな数字を残すのかは未知数だが、期待は高まる。

ここで気になるのは、じつは近年、『白雪姫』『ピーター・パン』の実写化もあった点だ。

白雪姫』(1937)→『スノーホワイト』(2012) 興収17.1億円

ピーター・パン』(1953)→『PAN〜ネバーランド、夢のはじまり〜』(2015) 興収7.5億円

と、両者とも思ったようなヒットに至らなかった。『スノーホワイト』はユニバーサル、『PAN』はワーナー・ブラザースが配給と、「ディズニー以外」の作品。『ピーター・パン』は2003年にもユニバーサルで実写化され、興収5億円。かつて『フック』はスピルバーグ監督ということで興収約46億円(推定)を記録したが、作品の評価は微妙だった。

というわけで、ディズニーのクラシックアニメの実写再生は、やはり本家のディズニーではないと、大成功は至難の業。その要因としては、「ディズニー」というブランドを使った宣伝戦略が挙げられる。オリジナルのアニメが高めてきた長年のネームバリュー。そしてディズニーランドなどのテーマパークで人気を維持するキャラクターたち。『ジャングル・ブック』も、主人公のモーグリ以上に、くまのバルーや、サルのキング・ルーイらは、パークのショーやアトラクションで活躍してきた。知名度は申し分ない。

『スノーホワイト』や『PAN』で、ディズニーのキャラクターと関連づけて、観客の心をキャッチするのは難しかったのだろう。

さらに強力なラインナップが!

今後も実写化の流れは止まらない…どころか加速していく。

ディズニーアニメ、第2の黄金期を作った2作の実写化は注目を集めそう。

1991年の『美女と野獣』が、エマ・ワトソン主演で2017年4月に日本公開。もちろん製作はディズニー。オリジナルと同じミュージカルなので、名曲の効果もあって世界的な大ヒットは確実だろう。

そして1989年の『リトル・マーメイド』もクロエ・グレース・モレッツ主演で製作が決まっているが、こちらはディズニー作品ではない。アンデルセンの「人魚姫」の実写化という路線になるのだろうか…。常識を破るヒットを狙えるか?

さらに進行中の企画として『ティンカー・ベル』や『ピノキオ』、一時、ティム・バートンが監督を務める可能性のあった『ダンボ』、『くまのプーさん』『ムーラン』など、ディズニーによる実写“復活”作が多数、そろっている。他社では成功できなかった『ピーター・パン』や『白雪姫』も、満を持してディズニーによる実写版が準備されている。

マーヴェル」「スター・ウォーズ」という2大ブランドを擁している、ウォルト・ディズニー・スタジオだが、自社の遺産をフル活用した「実写化プロジェクト」も、ものすごい勢いで拡大させているのだ。

『ジャングル・ブック』

8月11日(木・祝)ロードショー

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映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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