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早くも始まったアカデミー賞(R)予想。現時点で作品賞に最も近いのは?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
今年の賞レースの中心になりそうな『La La Land』の監督、キャストら(写真:REX FEATURES/アフロ)

2016年も2/3が終わり、ここからは一気に年末へ……というわけで、ハリウッドでは早くもアカデミー賞の話題が出てくるようになった。いくつかの予想記事があるなか、The Hollywood Reporterは、現時点でのさまざまな評価、過去の傾向などから2016年度のアカデミー賞に絡みそうな作品をリストアップしている。

たしかに時期尚早。それでも今後の賞レースの動向を占ううえで、大きな役割を果たしそう、という意味で、作品賞のフロントランナー、10本はどんな作品なのか。紹介していこう。

La La Land

一昨年の、あの鬼教師映画『セッション』がアカデミー賞に絡んだデミアン・チャゼル監督の新作で、オリジナルのミュージカル。ジャズ・ピアニストと女優をめざすヒロインの恋をメランコリックな名曲がいろどり、ライアン・ゴズリング、エマ・ストーンの切なすぎる名演技と、すべての要素が美しい化学反応を起こし、観た人の評判は最高値。ヴェネチア国際映画祭で絶賛され、トロント国際映画祭でも上映。トロントで観客賞を受賞すれば、作品賞ノミネートは確実か。ミュージカル作品がアカデミー賞作品賞に輝けば、2003年の『シカゴ』以来となる。

日本では2017年2月公開。まさにアカデミー賞授賞式に照準を合わせている。

Fences

デンゼル・ワシントンの監督3作目。1950年代のピッツバーグで、元野球選手で今はゴミ収集の仕事をする主人公と、その一家の家族ドラマがつづられる。トニー賞を受賞したブロードウェイの舞台が原作。デンゼルの監督賞なども噂されており、賞レースへの期待感から、全米は12月公開。

Hidden Figures

宇宙飛行士、ジョン・グレンをサポートした、NASAの女性スタッフたちに焦点を当てた一作。主人公の3人は、アフリカ系アメリカ人。『Fences』とともに、昨年のアカデミー賞でも話題になった「人種の多様性」を担う一作として評判が上がっている。全米公開は2017年1月なのだが、作品の仕上がりによって、年内に限定公開→賞レースに絡む、という可能性が。

Billy Lynn’s Long Halftime Walk

すでにアカデミー賞監督賞を2度受賞しているアン・リー監督の新作。イラク戦争で奇跡的に生き残った19歳の兵士とその仲間が、帰国後、英雄として祭り上げられる。その状況と、本人たちの葛藤に迫り、イラク戦争やアメリカの矛盾が浮かび上がるという、賞レース向きの社会派エンタテインメントになりそう。監督賞2度(『ブロークバック・マウンテン』『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』)が、ともに作品賞に到達していないアン・リーの悲願なるか?

Moonlight

幼少期、十代、大人になってから、という人生の3つの時期でのドラマを通し、アフリカ系アメリカ人の主人公の苦闘と成長を描く。これまた「多様性」を意識した作品。『それでも夜は明ける』『マネー・ショート 華麗なる大逆転』と、近年、アカデミー賞に絡む作品を送り出している、ブラッド・ピットの製作会社、プランBが関わっているのも強み。

Snowden

アメリカ国家安全保障局の裏情報を暴露した、エドワード・スノーデンの実話をオリバー・ストーン監督が映画化。アメリカ政府をも批判する骨太な社会派作品で、実録モノということで、賞レースにふさわしい一作のうえに、スノーデンを演じたジョセフ・ゴードン=レヴィットが激賞されている。主演男優賞の有力候補。

沈黙-サイレンス-

マーティン・スコセッシ監督が、遠藤周作の「沈黙」を映画化。17世紀の日本を訪れたキリスト教宣教師の苦闘を描く。主演はスパイダーマン役でスターになったアンドリュー・ガーフィールドだが、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、小松菜奈、塚本晋也らも出演しているので、日本でも大きな話題になりそう。スコセッシが長年、映画化を模索し、ようやくその夢を実現したので渾身の一作になっているのは間違いない。

Manchester by the Sea

ボストンで便利屋として働く主人公が、急死した兄の息子を育てることになる。主演はケイシー・アフレック。サンダンス映画祭で評判を集め、あのAmazonが配給することが話題になっている。Amazon、Netflixといった配信系の会社の作品として初の作品賞ノミネートを狙う。

ハドソン川の奇跡

日本でも9/24に公開される、クリント・イーストウッド監督作。旅客機が真冬のNYのハドソン川に不時着し、155人全員が助かった事故を映画化。奇跡の実話の映画化であるうえに、相変わらずイーストウッドの作品は絶賛を集めており、トム・ハンクスも3度目のオスカーの可能性もささやかれている。ただ公開が早めであるため、今後、公開される作品次第では不利な状況になるかもしれない。

Hell or High Water

こちらもすでに全米で公開中。差し押さえになったテキサス州の牧場を取り戻すため、銀行強盗になった兄弟と、彼らを追う保安官の攻防を描いた犯罪ドラマ。映画批評サイトのロッテントマトでは、批評家98%、一般観客91%支持というハイレベルの成績。

その他にもベン・アフレックの監督新作『Live By Night』や、東京国際映画祭のオープニング作品に決定した『マダム・フローレンス!夢見るふたり』などが次点に入っている。

ちなみに主演男優賞は

デンゼル・ワシントン

ジョセフ・ゴードン=レヴィット

ライアン・ゴズリング

トム・ハンクス

ケイシー・アフレック

主演女優賞は

エマ・ストーン

アネット・ベニング

ヴィオラ・デイヴィス

メリル・ストリープ

ルース・ネッガ

が、フロントランナーとしてリストアップ。

いずれにしても、これからさらに強力な作品が突然、出現する可能性は大。この予想がどのように変わっていくのかは、映画ファンにとって年末までの楽しみになってくる。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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