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アンジー&ブラピの“夫婦映画”は今週末、日本公開。何もこのタイミングで離婚しなくても…。

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『白い帽子の女』のLAプレミアより、笑顔のふたり(写真:ロイター/アフロ)

9月20日(現地時間)に突然、発表されたアンジェリーナ・ジョリーによる離婚申請。ブラッド・ピットとの結婚生活は終止符を打たれることになり、これからドロ沼の闘争が待ち受けているわけだが、アンジーが監督し、ブラピと共演した『白い帽子の女』が、日本では今週末の9月24日に劇場公開がスタート。何とも皮肉なタイミングになってしまった。

この『白い帽子の女』は、アンジェリーナ・ジョリーにとって監督3作目。前作『不屈の男 アンブロークン』は、太平洋戦争下で日本軍による米軍捕虜への虐待も描かれていたことから「反日的」などとレッテルを貼られ,全米から日本公開まで1年以上も遅れをとってしまった。本来なら公開するはずの日本の映画会社も別会社に変わるなど、公開されたのがラッキーなほど(内容的には「反日」といわれる作品ではなかった)。そして今回も離婚騒動の真っ最中に……と、アンジー、とことんついてない。

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『白い帽子の女』では、初めてアンジーの名前がスクリーンで「アンジェリーナ・ジョリー・ピット」とクレジットされている。それほどまでに「夫婦」としての意志を濃厚にアピールして撮った作品だった。ブラッド・ピットとの共演は、ふたりの愛が育まれた『Mr.&Mrs.スミス』以来、10年ぶり。まさに満を持しての夫婦の共同作業となる……はずだった。

1970年代の南フランスのリゾートを舞台にした本作。ニューヨークからやって来た倦怠期の夫婦が静かなホテルで過ごすのだが、夫は外のカフェで執筆作業にいそしみ、妻は隣室との壁に小さな穴を見つけ、そこから若いカップルの日常を覗くことに執着する。若いカップルの愛の営みや、それぞれがあらぬ誘惑に流されるなど、官能シーンも多数。何とも危ういストーリーが展開していく。

『白い帽子の女』という邦題はサスペンス風だが、あくまでも「イメージ」(原題は『By The Sea』)。舞台が70年代ということで、作品のタッチもどこかレトロ。演技や映像もクラシックなスタイルが意識され、このあたりはアンジーの監督としての狙いだったのだろう。

実際の夫婦が共演した映画は、トム・クルーズ&ニコール・キッドマンの『アイズ ワイド シャット』などこれまで何本もあったが、本作の場合、内容が内容だけにどうしてもアンジーとブラピの私生活を重ね合わせてしまい、ある種の“生ぐささ”が充満。逆の発想で考えれば、ここまで赤裸々な関係を演じられるのだから、結婚生活が安泰という「自信」の表れだともとらえることができた。アンジーとブラピのラブシーンを、役になりきった最高の演技ととれるか、リアルに映るかは、観る人に託される。

余談だが、アンジーがバストをあらわにするシーンもあり、乳房切除を受けた後の、見事に美しい「復活」も目にすることができる。これは、あえてアンジーが自らアピールしようとしたのではないか。

ふたりのうつろな表情が、いま観ると意味深…
ふたりのうつろな表情が、いま観ると意味深…

しかし、さまざまな話題を呼ぶ作品にもかかわらず、全米公開時(昨年の11月)でのレビューは芳しくはなかった。映画批評サイトのロッテントマトでも、批評家34%、観客33%と双方とも数字は厳しい。前作『アンブロークン』でも演出力は認められたアンジーなので、もし夫婦共演でなかったら、評価は高くなった可能性もある。

その『アンブロークン』と同じく、またしても日本公開まで時間がかかってしまったが、ある意味、ものすごいタイミングにもなった。ハリウッドで最も注目されてきたカップルの運命を重ねて、本作『白い帽子の女』を観れば、作品自体が訴えるパワー以上に、何か切実な「世の無常」を受け止めることができるだろう。

何より、現実がこうなってしまった以上、アンジーとブラピが夫婦役で共演する機会は今後、訪れないはず。失われた愛の風景を目に焼きつける意味でも、本作を観る価値はある。

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『白い帽子の女』

9月24日(土)シネスイッチ銀座、渋谷シネパレスほか全国ロードショー

(c) 2015 UNIVERSAL STUDIOS

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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