Yahoo!ニュース

東京国際映画祭、開幕。過去のグランプリ作品で思い出せるのは?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
安倍首相も出席した第29回東京国際映画祭オープニンセレモニー(写真:Motoo Naka/アフロ)

10月25日、第29回東京国際映画祭が開幕した。東京・六本木を中心に今年は203本の映画が上映され、メリル・ストリープらがレッドカーペットを賑わせる。この東京国際映画祭は、国際映画製作者連盟(FIAPF)が公認する「世界で17」の映画祭のひとつ。今年も岩井俊二や細田守の特集上映や、六本木ヒルズアリーナでの無料の野外上映など魅力的な企画が多いが、映画祭といえば、コンペティション。東京国際の場合は、世界各国から集まった斬新な才能の中から栄誉を与え、将来へのステップへ導く傾向が強い。

過去28回のグランプリ作品、28本(第8回は該当作なし。第10回は2本受賞)のうち、日本作品は2本。

国別に数えると

中国:4

フランス:4(うち1本はアメリカと合作)

日本:2

イスラエル:2

他はさまざまな国の映画が受賞している。

ただし、近年は特に「新たな才能の発掘」という観点が強いために、グランプリ受賞→日本で大きな話題に、という図式は残念ながら成立しづらくなっている。

ちなみに過去10年間のグランプリ作品を振り返ってみると……

2006年『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』 フランス

2007年『迷子の警察音楽隊』★ イスラエル

2008年『トルパン』 ドイツ/スイス/カザフスタン/ロシア/ポーランド

2009年『イースタン・プレイ』 ブルガリア

2010年『僕の心の奥の文法』 イスラエル

2011年『最強のふたり』★ フランス

2012年『もうひとりの息子』★ フランス

2013年『ウィー・アー・ザ・ベスト』 スウェーデン

2014年『神様なんかくそくらえ』★ フランス

2015年『ニーゼと光のアトリエ』★ ブラジル

リストには、映画ファンにとってもすっかり記憶の彼方に葬られたタイトルや、馴染みの薄いタイトルが並んでいる。10本のうち、受賞後、日本で劇場公開されたのが★印の5本。そのうちロングランヒットとなったのは『最強のふたり』だ。興収16億円で日本公開のフランス映画で歴代1位を記録した。

映画祭のグランプリと聞くと華々しい響きだが、たしかに「未来の才能」となると興行的なポテンシャルは未知数。単館系シアターの減少や、インディペンデント系配給会社の経営不信などさまざまな要因があり、グランプリ作品だからと言って、なかなか買い手はつかない。東京国際のグランプリという条件が、「売れる」要素につながらないのが現状だ。

できれば東京のグランプリが、国内でもっと関心が集まってほしい。毎年、そう考えずにはいられない。

とはいえ、過去をさかのぼれば、東京グランプリをステップとして、才能が花開いたケースもたくさんある。前述の『最強のふたり』も、東京での受賞後、母国フランスで公開が始まり、フランスで歴代観客動員数の3位という特大のヒットにつながっているからだ。もちろんグランプリ受賞が母国での大ヒットの要因ではないにしろ、東京国際が、そのヒットを“予言”したと言っても過言ではない。

では、それ以外のケースは……

アレハンドロ・アメナーバル監督(スペイン)

1998年『オープン・ユア・アイズ』でグランプリ

→ハリウッドでニコール・キッドマンを主演にホラーサスペンス『アザーズ』(01)を監督。『海を飛ぶ夢』(04)ではアカデミー賞外国語映画賞を受賞した。『オープン・ユア・アイズ』はトム・クルーズ主演で『バニラ・スカイ』(01)としてリメイクされた。

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督(メキシコ)

2000年『アモーレス・ペロス』でグランプリ

→菊池凛子がアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた『バベル』(06)で自身も監督賞にノミネート。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)、『レヴェナント:蘇えりし者』(15)で2年連続、アカデミー賞監督賞受賞の快挙。今や世界的な巨匠に。

ミシェル・アザナヴィシウス監督(フランス)

2006年『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』でグランプリ

→『アーティスト』(11)で自身の監督賞や作品賞を含め、アカデミー賞5部門受賞

このように東京国際から活躍の場を世界的に広げた才能は何人もいる。

さて今年のグランプリの行方はどうなるのか。コンペティションには世界各国から16本が集まっている。日本からは杉野希妃監督『雪女』、松居大悟監督『アズミ・ハルコは行方不明』が参加。日本映画として11年ぶり3本目のグランプリに期待がかかる。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事