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30年、安定感ピカイチ。新作で試される「トム・クルーズ主演作」のブランド力

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』のベルリンでのプレミア(写真:REX FEATURES/アフロ)

間もなく11/11に日本でも公開が始まる『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』。2012年に公開された『アウトロー』に続き、主人公ジャック・リーチャーが活躍するシリーズ第2弾である。主演はトム・クルーズ。

この作品、10/21に全米で公開され、オープニング週末の興行成績が、前作『アウトロー』の1520万ドルに対し、2280万ドルへと記録を伸ばすことに成功した。ここ数年、シリーズの2作目が1作目よりオープニング記録を上回るケースは少なく、これは成功例と言ってよさそう。「無敵で孤高の流れ者ヒーロー」というジャック・リーチャーのキャラが、映画の観客に受け入れられ、第2作の数字に表れたわけだ。アイアンマンやジェイソン・ボーンのように同様なパターンで続編が数字を伸ばすケースは、確かにある。

しかし、それ以上に感心してしまうのは、トム・クルーズの「スター力」だろう。現在、54歳。いまだに「トム・クルーズ主演作」と銘打ってヒット作を継続するパワーは神がかりともいえる。同年代のスター、ブラッド・ピットやジョニー・デップが、主演映画に一時ほどの勢いがなくなったのに対して、トム・クルーズの興行力はまだまだ健在だ。この法則を、日本での興行収入で確認すると……。

1986年『トップガン』66.3億円

1988年『レインマン』56.1億円

1996年『ミッション:インポッシブル』61.2億円

2000年『M:i-2(ミッション:インポッシブル2)』97億円

2002年『マイノリティ・リポート』52.4億円

2003年『ラスト サムライ』137億円

2005年『宇宙戦争』60億円

2006年『M:i:3(ミッション:インポッシブル3)』51.5億円

2011年『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』55.4億円

2015年『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』51.4億円

※年代は製作年 ※M:i:3の「3」は、正式にはローマ数字

主演作で日本での興収50億円以上が10本! 驚くべきは『ミッション:インポッシブル』シリーズの安定感でシリーズ3〜5作が50億円を切らずに、ふんばり続けていること。イーサン・ハント役を一人で背負って、ここまで高い数字を途切れさせない理由のひとつが、「トム・クルーズ主演作」というブランドなのは間違いない。

いっぽうで、『ミッション:インポッシブル』シリーズ以外の近年のトム・クルーズ主演作(おもにアクション系)の興収はというと……

2004年『コラテラル』22億円

2008年『ワルキューレ』12.5億円

2010年『ナイト&デイ』23.1億円

2012年『アウトロー』10.3億円

2013年『オブリビオン』12.8億円

2014年『オール・ユー・ニード・イズ・キル』15.7億円

突出した数字が出ていないのは事実。ただし、極端な「ハズレ」もない。この中でいちばん数字が低いのが、ジャック・リーチャーが主人公の『アウトロー』なのだか、トム自身が本気で役に惚れ込んだこともあり、今回の第2作が完成された。ややダークサイドもちらつくヒーロー像は、イーサン・ハントと対照的で、トムにとって演じ甲斐があるのだろう。

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ジャック・リーチャーが主人公の原作はシリーズ全21作で、『アウトロー』が9作目、『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』が18作目と、やや不規則。これは、ストーリーの面白さから選択されたと考えられる。この『NEVER GO BACK』では、元米軍捜査官のリーチャーにとって、かつての同僚があらぬ嫌疑をかけられて逮捕されてしまう。その無実を証明するため、軍全体を向こうに回したリーチャーが、とんでもない陰謀に巻き込まれていく。

ちょっと意外だったのは、ジャック・リーチャーの大前提が、ことさら強調されない点。流れ者で、身分証明書も持たず、法律は無視して自分のルールで悪を制裁する、ストイックで孤独……などなど、その特徴は前作『アウトロー』で説明されているせいか、詳しくは描写されない。その分、ストーリー重視で、映画が進むうちに「ジャック・リーチャーの映画」というより、「トム・クルーズの映画」にしか見えてこない! イコール、トムの活躍を愛でる作品に変貌しているのだ! これは、トム自身の狙いなのかも。近年の主演作で、トムがプロデューサーも兼任しているのは、『ミッション:インポッシブル』と、この

『ジャック・リーチャー』のシリーズのみ。それだけ“オレ様映画”にすべく気合いが注入されている、と見た。

そしてこの『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』、監督がエドワード・ズウィックというのも強運をもたらすかもしれない。トムにとって日本での最大のヒット作、『ラスト サムライ』の監督なのだから。

全米と同じく、日本でも前作『アウトロー』を超える数字に到達するか。トム・クルーズの、まだまだ健在なスターの神通力が試される。

『ジャック・リーチャー NEVER GO BACK』

11月11日(金)、全国ロードショー

配給:東和ピクチャーズ

(c) 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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