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東京国際映画祭でイチ早く完売。次に『ブレードランナー』を撮る監督の未体験SFが明らかに…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『メッセージ』主演のエイミー・アダムスとジェイミー・レナー、ロンドン映画祭より(写真:REX FEATURES/アフロ)

現在、開催中の東京国際映画祭で、前売りチケットが発売されるや、『クー嶺街少年殺人事件(※クーの漢字は、牛に古)』などとともに速攻で売り切れた作品のひとつ。それが『メッセージ』だ。

「特別招待作品」という、これから日本で劇場公開される話題作を集めた枠なのだが、通常、お正月映画などわりと近々公開の作品が多い。しかし、この『メッセージ』が日本で公開されるのは来年の5月。半年以上も待たなくてはならない。チケット速攻売切れの理由は、それだけではない。監督が、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。現在、『ブレードランナー』の新作を撮影中の、映画ファンにとっては注目の人なのだ。

すでにヴェネチアやトロントといった国際映画祭で上映されている『メッセージ』。評判はひじょうに高く、10/31現在、映画批評サイトのロッテントマトでは、批評家の満足度が100%という満点を記録! まだ一般公開されていないので観客の得点は出ていないが、この満足度なら、年末の賞レースに絡む可能性もある。SF映画としては珍しく……と考えていたら、配給のパラマウント(日本はソニー)は、どうやらマーティン・スコセッシ監督の『沈黙ーサイレンスー』を賞レースに推すようで、『メッセージ』には力を入れない、という残念な噂も伝わっている。

カナダ出身のドゥニ・ヴィルヌーヴ。これまでの作品といえば、『灼熱の魂』(92%)、『プリズナーズ』(81%)、『複製された男』(75%)、『ボーダーライン』(94%)と、ジャンルはさまざまながら、どれも観客の心を捕らえて離さない超インパクトな作風が彼の個性。タイトルの後の数字はロッテントマトの得点。アベレージの高さも実力を証明している。

とにもかくにも、東京国際映画祭でお披露目された『メッセージ』。その仕上がりは……。

結論からいえば、「これまで体験したことのないSF映画」であった。

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世界の各地に12の宇宙船らしき巨大な物体が現れる。攻撃を仕掛けてくるわけでもなく、空中に静止している状態のまま時間は過ぎていくが、それらは地球外から来たエイリアンのものであった(※その形状や大きさは下部のポスター写真を参照してください)。

言語学者のルイーズ・バンクス博士と、数学者のイアン・ドネリーが、このエイリアンとコミュニケーションを試みようとする物語が進行していく。ここからの展開は、過去に作られてきた「エイリアンとコンタクトする」どの映画とも違った方向になだれ込んでいき、観ているこちらは、ひたすら好奇心がふくらみ、身を乗り出してスクリーンを凝視するしかない。

※ここからは多少ネタバレもあるが、極力、抑え気味に作品を紹介。

ルイーズらが宇宙船に入っていく方法、ガラス越しに対面するエイリアンの造形(ヘプタポッド=七本脚と形容される)、さらにルイーズらが試みる実験へのヘプタポッドの応え方など、あらゆる要素が、映画を観慣れた人にも未体験のビジュアルで迫ってくる。

さらに宇宙船に対する12カ国の連携がどうなるか、というドラマも絡み(余談だが、中国の扱い方も最近のハリウッド映画に比べて異色!)、やがてヘプタポッドが地球に来た目的が明らかになるのであった。

体験しことのないビジュアルとテーマ

この『メッセージ』が観客の心をつかむのは、ビジュアルや物語だけではない。奥深いテーマだ。ヘプタポッドのユニークなコミュニケーション方法と、それに対するルイーズの考察などから、そもそも「コミュニケーションとは何か?」という根源的問題を考えさせられる。もうひとつのテーマが「時間」。ルイーズには愛する娘を病気で亡くした過去があり、その回想があちこちに挿入される。ヘプタポッドの目的が分かったとき、時間の問題と、ルイーズの人生が重ね合わさって、信じがたい結末に導かれるのだった。しかも安易な親子愛とかではないレベルで……。この映画が描く「時間」を受け止めたら、いま日本で大ヒット中の『君の名は。』にも新たな発見があるかも。

大げさに言ってしまえば、SF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』と似た感覚に陥る人もいるかもしれない(あくまで“大げさ”ですが)。シーンや演技に込められたものを、何度か観直して確認したくなる作品なのだ。

かといって、堅苦しい哲学的映画ではなく、エンタメ作品として没入できる。この匙加減のすばらしさ! ヴィルヌーヴ監督の、新たな『ブレードランナー』への期待が天井知らずで高くなってしまうではないか!

『メッセージ』の原作は、テッド・チャンの短編小説「あなたの人生の物語」。映画の原題は『Arrival(到着)』である。

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『メッセージ』

2017年5月、ロードショー

配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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