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【最速レビュー】ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅 観終った瞬間、夢から醒めた切なさも…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
NYプレミアでの原作者のJ.K.ローリングと主演のエディ・レッドメイン(写真:ロイター/アフロ)

たとえば2時間、ファンタジックな魔法の世界を訪れて、このまま現実に戻りたくない……と感じたとする。でもその世界は時間どおりに終わる。そのときの言いようのない寂しさ、胸の奥を切なく締めつけてくる……。

1920年代NYにトリップさせる魔法

ファンタスティク・ビースと魔法使いの旅』は、そんな映画だった。すでにシリーズ化が決定され、本作の後も新たな物語が生まれるのだが、この一作できっちりと美しい完結をみせる。しかも、この幸福な寂寥感は、むしろ大人の観客にアピールするのではないか。『ハリー・ポッター』とは別種の後味がもたらされるに違いない。

すでにあちこちで紹介されているとおり、『ファンタスティク・ビースと魔法使いの旅』は、『ハリー・ポッター』から約70年前にさかのぼる物語。ハリーたちがホグワーツで使っていた教科書「幻の動物とその生息地」の著者である、ニュート・スキャマンダーが主人公だ。ダンブルドアが言及されるなど、わずかに「ハリポタ」とのリンクはあるが、基本は独立したドラマ。舞台も1920年代のニューヨークなので、映像の印象もまったく異なる。その背景を再現するうえで、本作は衣装の貢献度がひじょうに高く、同じく1920年代が舞台の『シカゴ』でアカデミー賞を受賞した衣装デザイナー、コリーン・アトウッドの仕事はエキストラの細部に至るまで徹底している。ディテールへのこだわりは、「ハリポタ」の伝統を受け継いでいるのだ。

ニュートの小さなトランクには、世界各地で集めた魔法動物たちの世界が!
ニュートの小さなトランクには、世界各地で集めた魔法動物たちの世界が!

アカデミー賞受賞者といえば、主人公ニュート役のエディ・レッドメインである。マイペースの天然系で、女子が“萌える”要素を兼ね備えたニュートのキャラに、これ以上ハマるスターはいないだろう。冒険を繰り広げるヒーローでありながら、受け身の性格を崩さない(=演技としても熱くなり過ぎない)エディのおかげで、タイトルのファンタスティッック・ビースト(魔法動物)たちの活躍に、よりスポットが当たっていく。

これまでに観たことのない「かわいさ」

基本は「かわいい」系のビーストたち。でもその印象は「カワイイ〜」と歓喜するというより、思わずポロリと「かわいいな」と感嘆する感じ(わかりにくくてすみません…)。媚びてるのではなく、存在そのものが愛くるしいのである。モグラとカモノハシが合わさったようなニフラーは、キラキラした物体を求めて自由に(&賢く)暴走するのだが、その行動がいちいち愛おしい。そして気弱で、ニュートに甘えまくるのが、小枝の姿をしたボウトラックル。2匹とも、本能の動きが家庭のペットのよう。この2つのキャラだけで満腹感を味わえるが、これ見よがしな媚を売らないキャラ作りが好印象なのである。

アメリカの魔法省の内紛や、魔女狩りを思わせる人々の暗躍など、やや本筋から逸れるドラマもあるが、全体のスケール感を保つという意味で、観客を飽きさせるほどではない。すでに続編への出演が発表されているジョニー・デップが出てくるシーンも、オマケとして楽しめる。終始、完成度が高いのがオリジナルスコアで、あの「ハリポタ」の音楽もわずかに流れるが、“職人”ジェームズ・ニュートン・ハワードによるサウンドトラックの、恐ろしいレベルで映像とマッチしている。これは驚くほど!

ファンタジーの名作が甦る後味

影の主人公であるノー・マジのジェイコブ(左)
影の主人公であるノー・マジのジェイコブ(左)

終始、ハリーが主人公だった「ハリポタ」だが、この「ファンタビ」はニュートが主役ながら、あるキャラの視点で観ると、クライマックスの感動もより高まるかもしれない。それはメインキャラで唯一のノー・マジ(人間)のジェイコブだ。事件の発端は彼が原因でもあるのだが、冒頭に書いた「夢から醒める寂しさ」も、ジェイコブがもたらしてくれる。

「不思議の国のアリス」や「オズの魔法使い」といったファンタジーの不朽の名作から、『時をかける少女』のような日本映画まで、ひとときの夢の世界を楽しんだ後の言い知れぬ幸福感を、『ファンタスティッック・ビーストと魔法使いの旅』は届けてくれるだろう。

最後に今年のお正月映画のトップを争う作品と、『ハリー・ポッター』シリーズの日本での興行収入記録を。

12/10公開『海賊とよばれた男

→岡田准一×山崎貴監督×原作・百田尚樹という『永遠の0』トリオ

12/16公開『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー

→『スター・ウォーズ』エピソード3と4の間の物語

12/17公開『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!

→シリーズ3作目。お正月映画の定番に。

12/23公開『バイオハザード:ザ・ファイナル

→ついにシリーズ完結。アリスの謎が明らかに。

『ハリー・ポッターと賢者の石』203億円

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』173億円

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』135億円

『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』110億円

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』94億円

『ハリー・ポッターと謎のプリンス』80億円

『ハリー・ポッターと死の秘宝PART1』69億円

『ハリー・ポッターと死の秘宝PART2』95億円

画像

11月23日(水・祝)、 全国ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画

(C)2015 WARNER BROS ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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