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まぎれもない傑作!『ラ・ラ・ランド』がアカデミー賞に近い、いくつかの理由

斉藤博昭映画ジャーナリスト

映画のマジックにかかる」とはこのことか。

ひととき、夢のような時間を過ごし、最後は切なく胸を締めつけ、余韻がいつまでも続くーー。

すでに各国の映画祭などで上映され、観た人の多くが魅了されている『ラ・ラ・ランド』は、評判どおりの傑作だった。ハリウッドを舞台に、女優をめざすミアと、バーでピアノを弾くセバスチャン。二人の出会いから恋に、それぞれの仕事での葛藤とチャレンジを絡め、“ロマンチック”度、そして“ホロ苦”度、ともに極上ランク! 冒頭、ワンカットで見せるミュージカルシーンから、一気に心をわしづかみにされた。要所にはクラシック映画へのオマージュをさり気なく散りばめつつ、運命の恋に対し、「あの時、こうしていたら」という切実な思いを鮮やかに映像で見せてくれる。そして本作のために作曲されたメロディと、映像美の究極のコラボ……。まさに「いつまでも観ていたい」映画だった。

年末が近づき、アカデミー賞予想の情報も行き交っているが、夏頃からつねに有力候補として名が挙がっていた『ラ・ラ・ランド』。例年、早い時期に「オスカー候補」などと持ち上げられると、年末にかけて有力作が登場し、消えていくケースも多い。しかし『ラ・ラ・ランド』は現在も多くの予想サイトで本命に近い位置にランクづけされ、今後の賞レースへと突き進んでいる。

現時点での今年のライバル作品を眺めると、シリアスな社会派作品や感動系の実話が例年どおり多め。その中にあて、ミュージカルでラブストーリーの『ラ・ラ・ランド』が際立っているのは事実。このまま作品賞へのノミネートは確実と言っていいが、作品賞自体に輝く可能性として、次のような「追い風」を挙げてみたい。

主演はライアン・ゴズリングとエマ・ストーン
主演はライアン・ゴズリングとエマ・ストーン

☆バックステージもの

映画業界人が投票するアカデミー賞において、ショービジネスを扱った作品には自然と共感が集まる。『ラ・ラ・ランド』も、映画の都、ハリウッドを舞台にしているので、「もろド真ん中」な題材である。

過去10年の作品賞を振り返ると

2015年 スポットライト 世紀のスクープ

2014年 バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)★

2013年 それでも夜は明ける

2012年 アルゴ★

2011年 アーティスト★

2010年 英国王のスピーチ

2009年 ハート・ロッカー

2008年 スラムドッグ$ミリオネア★

2007年 ノーカントリー

2006年 ディパーテッド

※年代は該当年度(授賞式は翌年)

10本中、★印の4本が映画や演劇、TVなどの「舞台裏」が物語に大きく絡んだ作品である。やはりバックステージものは強い。

☆ハリウッド王道ジャンルの継続

『ラ・ラ・ランド』はミュージカル(とは言っても歌がいっぱいのコテコテミュージカルではない)。ミュージカルといえば、ハリウッドの伝統であり、2002年に『シカゴ』がアカデミー賞作品賞を受賞したときは、このジャンルの復活が話題になった。その後、『レ・ミゼラブル』などノミネート作品も生まれ、来年は『美女と野獣』の実写版なども控えている。14年ぶりにミュージカルが作品賞という期待は大きい。しかも『シカゴ』や『レ・ミゼラブル』と違って、『ラ・ラ・ランド』は映画オリジナルのミュージカルという点が評価されている。

☆前作の評価も加味?

『ラ・ラ・ランド』の監督、デイミアン・チャゼルは2年前の『セッション』でも「新たな才能の出現」として注目を集めた。『セッション』はアカデミー賞作品賞のほか、チャゼル自身も脚色賞にノミネート。2作とも「音楽」が重要な要素だが、作品のテイストは別物。どんなジャンルでも対応できるとして、チャゼルの才能が賞賛されている。

☆トロント国際映画祭観客賞

前年の9月に開催されるトロント国際映画祭は、近年、アカデミー賞レースを占う映画祭と言われている。最高賞である観客賞を受賞すると、高い確率でアカデミー賞作品賞にノミネートされるのだ。今年のトロント観客賞が『ラ・ラ・ランド』である。過去10年の結果と、アカデミー賞での結果は以下のとおり。

2016年 ラ・ラ・ランド →???

2015年 ルーム →作品賞ノミネート

2014年 イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密 →作品賞ノミネート

2013年 それでも夜は明ける →作品賞受賞

2012年 世界にひとつのプレイブック →作品賞ノミネート

2011年 Et maintenant, on va ou

2010年 英国王のスピーチ →作品賞受賞

2009年 プレシャス →作品賞ノミネート

2008年 スラムドッグ$ミリオネア →作品賞受賞

2007年 イースタン・プロミス

ここ10年で、アカデミー賞作品賞に直結したのが3本、ノミネートに至ると7本という高確率。

☆日本の配給はGAGA

メジャースタジオ作品以外から、良質な洋画を買い付け、配給する、日本のインディペンデントの配給会社であるギャガ(GAGA)。おのずとアカデミー賞に絡む作品も多くなる。

過去10年のアカデミー賞作品賞のうち、なんと4本がギャガの配給作品。しかも過去10年のうち、ギャガ作品が作品賞にノミネートされなかったのは、わずかに2回のみで、ここ7年間は連続でノミネート作品があるという好成績。次のアカデミー賞では、『ラ・ラ・ランド』だけでなく、同じギャガ配給の『Lion(原題)』も有力候補である。

とは言っても、ノミネートはともかく、作品賞受賞となると不確定要素はある。

『ラ・ラ・ランド』にとってのマイナス面を挙げるとしたら……

☆早い時期から話題になりすぎ

近年のアカデミー賞では、前哨戦の各賞が発表されるなか、終盤に現れた作品が「逆転勝利」する可能性が高い。賞を選ぶ側にとって「新鮮さ」も不可欠な要素だからだ。早くから本命のひとつと騒がれる『ラ・ラ・ランド』は、作品賞にノミネートはされても、後から追い上げてくる作品に抜かれるかもしれない。

『ラ・ラ・ランド』が現時点でほぼ確実と言っていいのが、ゴールデングローブ賞のコメディ/ミュージカル部門での作品賞・主演男優賞・主演女優賞だろう。

ライバル作品の評価が固まってくる12月は、前哨戦の結果も次々と出始めるので、アカデミー賞への道筋が見えてくるはずだ。

画像

『ラ・ラ・ランド』

2017年2月24日(金)TOHOOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー

配給:ギャガ/ポニーキャニオン

(c) 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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