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ゴールデングローブ受賞『ムーンライト』は、まさかの純愛映画だった。次はオスカー争いへ

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ゴールデングローブ賞作品賞(ドラマ部門)を受賞した『ムーンライト』の面々(写真:REX FEATURES/アフロ)

アカデミー賞へ向けての前哨戦、ゴールデングローブ賞は『ラ・ラ・ランド』が史上初の7部門を受賞し、その強さを見せつけた。とはいえ、ゴールデングローブはドラマ部門とコメディ/ミュージカル部門が分かれているうえに、撮影賞や編集賞などは設けられず、作曲賞や主題歌賞はあるので、ミュージカルの『ラ・ラ・ランド』は、もともと有利だった。

ちなみに過去20年を振り返って、ゴールデングローブ作品賞を受賞し、そのままアカデミー賞作品賞につながった例は以下のとおり。

コメディ/ミュージカル部門3本

『恋におちたシェイクスピア』(1998)

『シカゴ』(2002)

『アーティスト』(2011)

ドラマ部門9本

『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)

『タイタニック』(1997)

『アメリカン・ビューティー』(1999)

『グラディエーター』(2000)

『ビューティフル・マインド』(2001)

『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2003)

『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)

『アルゴ』(2012)

『それでも夜は明ける』(2013)

圧倒的にドラマ部門が多いのは、まぁ当然のこと。娯楽作ではなく「ドラマ性」の方が、賞レースでは有利になるのは仕方がない。

ゴールデングローブの結果により、『ラ・ラ・ランド』はアカデミー賞での有利な状況を“地固め”したが、その対抗馬の筆頭になるのは、ドラマ部門作品賞を受賞した『ムーンライト』である。

ちょうどゴールデングローブ賞授賞式の日に同作を観たので、どんな作品かを紹介したい。

舞台はマイアミ。主人公シャロンの少年時代青年期、そして大人になってから、という3つのパートが描かれる。学校でイジメに遭う日々を送り、母親は麻薬常用者という彼が、近所の麻薬ディーラーや友人のケビンとの交流を通して自分自身と向き合う。それだけ聞くと、切実な成長ストーリーとして新鮮さは少ないかもしれない。

しかし実際に本作を観ると、これが予想外の純愛物語だったことに驚いた。シャロンからのケビンへの想いは、友情以上の「愛」。彼はゲイであることを自覚する。過酷な人生とは裏腹に、観終わった後は、彼の一途な愛がじんわりと心にしみてくる作り。こうした物語を映画で観ると、どうしても主人公の人種やセクシュアリティを“特別なもの”と感じてしまう人は多いはず。でも本作は、その“特別感”が薄く、普遍的な一途愛になっているところがスゴい! 最初は特殊な愛だと違和感をもつ人がいたとしても、最後は本作の世界に深く取り込まれてしまうはず。

昨年のアカデミー賞では、演技賞の候補者がすべて白人だったことが論議を呼び、「白すぎるオスカー」などと揶揄され、多様性が求められた。『ムーンライト』は、その反省材料としても最適。たしかに「これぞアカデミー賞作品賞」という大きな手応えを得られる映画ではない。キャストも、最も有名なのが母親役のナオミ・ハリス(『007 スペクター』のマネーペニー役)と、地味なのは事実。しかし、これが長編監督2作目というバリー・ジェンキンスは、音楽の使い方も絶妙なうえに、要所ではユーモアも挿入。シビアな展開にもかかわらず、客席からは、たびたび笑いが起こっていた。

『ムーンライト』の製作総指揮を務めたのはブラッド・ピット。3年前、彼が製作した『それでも夜は明ける』はアカデミー賞作品賞に輝いた。今年の授賞式で、再び彼が栄冠を手にする姿を見ることができるだろうか。

『ムーンライト』 2017年、全国ロードショー

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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