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『君の名は。』は逃したが、意外な「日本の」作品がいくつも!? アカデミー賞ノミネート

斉藤博昭映画ジャーナリスト
Kubo and the Two Stringのキャラたちとマシュー・マコノヒー(写真:REX FEATURES/アフロ)

1月24日、アカデミー賞ノミネートが発表された。予想されたとおりだが、今年はやや「地味」な印象は否めない。最も華やかな主演男・女優賞ではナタリー・ポートマン、メリル・ストリープらが顔を揃えるも、全体的には通好み。昨年のディカプリオやマット・デイモン、一昨年のベネディクト・カンバーバッチのような超人気男優スターの候補入りはなかった。

日本が舞台のアニメがノミネート。受賞も狙う

日本からは、賞の選考対象作になっている『君の名は。』やイッセー尾形のノミネートも期待されたが、それもなし。『君の名は。』はアジア圏では絶大なブームを巻き起こしているものの、欧米ではまだ冷静な受け止め方のようだ。しかし長編アニメーション賞にはスタジジオジブリの『レッドタートル ある島の物語』がノミネート入り。これで同賞には、日本が関わった作品が4年連続でノミネートとなった。そして密かに注目してほしいのは、同賞のノミネート作『Kubo and the Two Strings(クボと2本の弦)』である。

この作品、舞台が「日本」なのだ。

製作したのは『コララインとボタンの魔女』などのライカスタジオ。同社はストップモーション・アニメで有名。現在、長編アニメの主流となっているCGではなく、1コマ1コマを動かすアニメ本来のプロセスにこだわっている。

『Kubo』は、何百年も前の日本で吟遊詩人として静かに暮らす主人公のクボが、祖先の霊と出会い、戦士となる物語。めくるめく冒険ファンタジーが、ストップモーションの手触り感も満点に展開していく。クボが「三味線」を武器に戦い、猿やカブトムシを従えて旅するなど、奇想天外なシチュエーションもあるものの、意外や意外、その描写は“なんちゃって日本”になってなくて感心するばかり。日本の民話からの影響も見つけられ、作り手の日本カルチャーへの敬意が満ちているのだ。

そしてこの『Kubo』、長編アニメーション部門だけでなく、視覚効果賞にもノミネートされた。純粋なアニメ作品で同賞にノミネートされるのは、1993年度の『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』以来、2度目の快挙となる。『ズートピア』が最有力とされる今年の長編アニメーション賞だが、もしかしたら『Kubo』の逆転劇が起こりそうな気配もある(『ナイトメアー』の93年は長編アニメ部門自体がなかった)。ディズニーのパワーに、日本の戦士クボの三味線パワーが立ち向かうことに!?

『Kubo』は、声のキャストも豪華で、マシュー・マコノヒー、シャーリーズ・セロンといったオスカー俳優も名を連ねている。日本では、『コラライン』を配給した会社によって今年、公開される予定だ。

沖縄を背景にした衝撃作が作品賞候補に

そしてもうひとつ、アカデミー賞ノミネートによって、日本が舞台の作品への期待が高まっている。現在、公開中の『沈黙ーサイレンスー』は撮影賞のみの候補入りだったが、それ以上に注目が高まったのが『ハクソー・リッジ(原題)』。

作品賞、監督賞など6部門でノミネートの快挙を達成した。

同作は、第二次世界大戦中の沖縄戦が背景。志願して入隊するも、宗教上の理由で「銃は持たず、絶対に人を殺さない」ことを頑に守り、上官からは激しく非難されながらも、衛生兵として戦友の命を救うことに徹する。そんな実在の米兵をモデルにした本作。タイトルは、激戦の場となった沖縄北部の崖の名前(米軍の呼称)。日本では前田高地と呼ばれる150mもの絶壁で、ノコギリの刃(ハクソー・リッジ)のように見える。

この映画、観た人の多くが「『プライベート・ライアン』も超えた!」と衝撃を受けている。それほどまでに戦場での映像がリアルなのだ(メル・ギブソン監督ですから!)。とにかく観た後、全身の体力が消耗するのは確実。そんな戦場での、主人公による仲間の救出劇は当然、半端なレベルではない。主演はアンドリュー・ガーフィールド。奇しくも彼は、同じ日本を舞台にした『沈黙』でも主演を務めている。しかも宗教と、残酷な仕打ちで苦闘する運命も同じ。今回のアカデミー賞では『ハクソー・リッジ』で主演男優賞にノミネートされた。受賞は厳しそうだが、『沈黙』の熱演も票に加味されるかもしれない。

『ハクソー・リッジ』も『沈黙』も日本でロケは行われていないが、同じ年に、日本が舞台の作品がノミネートされたわけで、『レッドタートル』だけでなく、アカデミー賞授賞式全体への日本での関心が少しでも増えてもらえればいいと思う。

アカデミー賞授賞式は、2月26日(現地時間)。日本では27日となる。

『ハクソー・リッジ』は日本で夏に公開。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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