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オスカー候補直後、最高タイミングでの来日『ラ・ラ・ランド』。会見場の熱気、日本映画へのオマージュも

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ラ・ラ・ランド』記者会見で語り合うライアン・ゴズリングとデイミアン・チャゼル(写真:REX FEATURES/アフロ)

『タイタニック』と同記録

1月24日に発表されたアカデミー賞ノミネートで、13部門14ノミネート(主題歌賞で2つ)達成という、驚異の記録を作った『ラ・ラ・ランド』。14ノミネートはアカデミー賞史上最多タイで、過去には『イヴの総て』(1950)、『タイタニック』(1997)があった。2作とも最高の栄誉である作品賞に輝いていることから、『ラ・ラ・ランド』も大本命として授賞式の2月26日(現地時間)を迎えることになる。

このノミネート発表と同じ週に、『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼル監督(『セッション』)と、主演のライアン・ゴズリングがキャンペーンのために来日を果たした。まさに絶好のタイミングである。

会見場に溢れる“ゴズ愛”

そのためか、27日に都内で行われた記者会見は、異様な熱気に包まれていた。会見場に入りきらないほどの人、人、人……。壁側にもぎっしりとカメラマンや記者が並び、まさに立錐の余地もない状態。監督は初来日、ライアン・ゴズリングは13年ぶりの来日ということだが、ゴズリング、筆者のまわりにも意外な隠れファンが何人もいて、彼を一目見たさに会見場に足を運んだマスコミ関係者も多かったようだ。

何より、この『ラ・ラ・ランド』が映画ファン、映画関係者の心をつかんでいるのは、ミュージカルとして過去の名作へのオマージュが半端じゃない量で、しかもあざとくなく自然に詰め込まれているからだ(ミュージカル映画に興味がない人にはオマージュが邪魔にならず、すんなり物語に入り込める)。

数日前から、『ラ・ラ・ランド』のシーンと、過去の作品を比較する動画も話題になっていた。

その動画を見た人は、振付けや衣装、背景はもちろん、俳優の一瞬の表情まで、名作との共通点のオンパレードに心躍ったはず。

この日の会見では、こうしたオマージュへの質問も出た。それに対するデイミアン・チャゼル監督の答えは、次のとおり。

無意識に多くのオマージュが入っている。なぜなら僕らは、いろんな映画の記憶の海を泳ぎながら作ったようなものだからだ。じつは昨日、日本に来て、指摘されたのが、鈴木清順監督の『東京流れ者』(1966)だった。よく考えると絵コンテの段階でヒントにしていたと思う。ワイドで撮った映像や、ポップアートのような雰囲気……。『東京流れ者』は銃撃アクションもあるが、(歌謡曲を使った)ミュージカル風の作品だ。無意識のオマージュかもしれない。少なくとも、アメリカでは誰も『東京流れ者』へのオマージュは指摘していないよ。

たしかにポップな色づかいの衣装やセットに、意外な共通点も発見できるーー。膨大な映画の記憶の海。そこには『東京流れ者』のような日本映画も含まれていたのだ。

その監督の告白に、横にいたライアン・ゴズリングが耳打ち。彼の指摘を監督が自らのコメントとして付け加えた。

じつは『ラ・ラ・ランド』の録音が行われたのは、『オズの魔法使』や『雨に唄えば』と同じレコーディング・スタジオだったんだ。ミュージカル映画の金字塔と同じだったわけで、限りなく大きな贈り物になったよ。

デイミアン・チャゼル監督は32歳になったばかり。有力視されるアカデミー賞監督賞を受賞すれば、史上最年少タイ記録(前回は1931年!)となる。ライアン・ゴズリングも主演男優賞レースの2〜3番手の位置につけている。

アカデミー賞の本選では『ムーンライト』などのライバル作品もあるので、まだまだ余談は許さない。しかし受賞結果に関係なく、映画愛に満ちあふれた『ラ・ラ・ランド』が、多くの人に愛され、記憶に残る作品となるのは間違いない。

『ラ・ラ・ランド』の日本公開は、アカデミー賞授賞式の3日前。2月24日である。

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『ラ・ラ・ランド』

2月24日(金)TOHOOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー

配給:ギャガ/ポニーキャニオン

(c) 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND.Photo courtesy of Lionsgate.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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