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「白すぎるオスカー」への反動がモロに出てしまった、アカデミー賞前哨戦

斉藤博昭映画ジャーナリスト
大方の予想を覆してSAG主演男優賞を受賞。驚きの表情をみせるデンゼル・ワシントン(写真:ロイター/アフロ)

2月24日のアカデミー賞に向け、その受賞結果の予想で最も参考になるのが各組合による賞だ。作品賞であれば、PGA(全米製映画作者組合賞)、監督賞であればDGA(全米映画監督組合賞)といった具合。同業者が投票するアカデミー賞なので、各組合賞とは投票者の多くが重なるため、必然的に結果が近くなるというワケ。

注目が集まる演技各賞は、そういうわけで全米映画俳優組合賞(SAG)と一致する傾向が強い。本日(現地時間は1/29)授賞式が行われたそのSAGの映画部門の結果は、以下のとおり。

キャスト賞(アンサンブル賞):Hidden Figures

主演男優賞:デンゼル・ワシントン(Fences)

主演女優賞:エマ・ストーン(ラ・ラ・ランド)

助演男優賞:マハーシャラ・アリ(ムーンライト)

助演女優賞:ヴィオラ・デイヴィス(Fences)

SAGにおいて作品賞、つまり最高賞のキャスト賞に輝いた『Hidden Figures』は、1950〜60年代のNASAで、地球周回軌道を達成した飛行士、ジョン・グレンの功績を支えた、3人の黒人女性の実話。当時、NASAでさえ人種差別があり、数学やコンピュータで類い稀な才能をもった3人が、トイレは白人用とは別の遠く離れた場所を使うなど、多くのハードルを乗り越えて、職務をまっとうする超感動ストーリーだ。

つまり黒人女性たちが主人公。SAGの授賞式でも、3人の女優が壇上で感激のスピーチを行った。アカデミー賞の作品賞で本命とされる『ラ・ラ・ランド』は、このキャスト賞にノミネートされておらず(主人公が2人なのでアンサンブルという観点では難しい面もあった)、この賞は予想が難しかったが、現在、全米で大ヒット中の『Hidden Figures』の勢いが受賞につながったと言える。

そして演技賞4部門のうち、3部門が黒人の俳優で占められた。なかでも主演男優賞は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレックが最有力と予想されていただけあって、受賞したデンゼル・ワシントンも心から驚きの表情を見せることになった。

ちなみにノミネートの段階で、黒人俳優の数は、

主演男優賞:1

主演女優賞:0

助演男優賞:1(他にインド系イギリス人のデヴ・パテル)

助演女優賞:3

と、そこまで目立っていたわけではない。

そしてドラマ部門の受賞者は、白人俳優が多くの部門を占めている。

昨年のアカデミー賞では、演技賞4部門の候補がすべて白人だったことで、「白すぎるオスカー」との批判が巻き起こり、授賞式の結果以上にその話題が先行してしまった。

ちなみに昨年のSAGの映画部門の4つの演技賞では、黒人でのノミネートが助演男優賞にイドリス・エルバだけだったが、彼は受賞に届いていた。

トランプ政権発足によって「多様性」への危機感も追い風になったのかもしれない。しかし、それにしてもここまで昨年の反動があるとは……。

アカデミー賞のノミネートでの黒人俳優の数は

主演男優賞:1

主演女優賞:1

助演男優賞:1(他にインド系イギリス人のデヴ・パテル)

助演女優賞:3

と、SAGより一人多い。

アカデミー賞でも、昨年の「白すぎるオスカー」の反動が顕著に表れるのだろうか。受賞の行方は、やや混沌としてきたかもしれない。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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