来週公開2作を皮切りに、2017年は韓国映画の過激さが再びブームを作るか?
ここ数年、日本で公開される韓国映画が極端に大きな話題を集めることはなかった。
1999年の『シュリ』や2000年の『JSA』、2001年の『猟奇的な彼女』、2003年の『殺人の追憶』など日本で大ヒット/話題になった映画が、「冬のソナタ」やK-POPとともに起こした韓流ブームも、すでに過去のこと。近年は日本と韓国の政治問題の影響で、一時は韓国のエンタメネタを掲載しない出版社などもあり、日本における韓国映画の需要は明らかに少なくなっていた。しかしそんな状況だからこそ、あえて日本で公開される映画は突出したものになる。2017年は、そんな作品が次々と出現する年になりそうだ。どの作品も「強烈さ」が共通しており、そうした強烈さを求める観客が日本にどれくらいいるかは、また別の話だが……。
今から期待しておきたいのが、夏に公開される『新感染 ファイナル・エクスプレス』。
韓国本国はもちろん、すでに世界各国を熱狂させている一本で、釜山行き(←これが原題)の高速鉄道内の大パニックを描いた、ノンストップの衝撃作。そのパニックの根源は……ゾンビ! 2016年の韓国映画で、同国の興行成績ナンバーワンを記録。監督のヨン・サンホは一気に世界的に注目され、同監督のアニメーション作品も続けて日本で公開される。
この『新感染』を前に、2017年、韓国映画の勢いをつけるのが、来週、立て続けに公開される2作になりそうだ。これが2作とも、トラウマになるほどの強烈なインパクトで迫ってくるのである。
3/4公開『アシュラ』
政治家の裏側、そしてバイオレンス。この2つの要素が究極点で化学反応を起こし、観ている間、体内をアドレナリンが駆け巡るような一作である。他国の映画とは明らかに違う、徹底して激しさを追求する韓国映画の特徴が表れていると言ってよさそう。
架空の街であるアンナム市を舞台に、利権のためなら裏で何でもやる市長、その腐敗政治を訴えようとする検察官チーム。主人公は、その両者の間をスパイのように行き来する刑事で、彼のやり口もモラルそっちのけ状態だ。
今作で描かれる市長の行為は、かなり極端(だからこそ観ていて面白い)。邪魔者は手下を使って消す。マスコミも操って、イメージを作り上げる。犯罪にも手を染めて金儲けする……。さすがにここまで権力を使って悪事をはたらく政治家は稀だろう。でも観ているうちに、これが政治の常識と思えてくれる怖さが滲み出てくる。それが『アシュラ』の真骨頂だ。見るも無惨なボコボコ状態になる、主演のイケメン俳優、チョン・ウソンの熱演を中心に、全編、止まらない「強烈さ」には呆然とするしかない。バイオレンスシーンでの軽快な音楽の使い方など、バランス感覚も秀逸。前半、ややストーリーがわかりづらい部分もあるが、終盤の怒濤の展開で、観た後の「体力消耗度」は半端じゃない。
その『アシュラ』と同じ週末、3/3公開が
『お嬢さん』
タイトルとは裏腹に、こちらも衝撃度がハイレベルなのだが、『アシュラ』と同じく裏切りや人間の欲を突き詰めつつ、際立つのはエロ要素である。「官能」というやわらかな表現では物足りない、ゾクゾクさせる描写がテンコ盛りになっているのだ。
日本統治下の朝鮮半島を舞台にした今作(この時代を背景にした映画は、韓国でちょっとしたブーム)。豪邸に暮らす富豪の日本人に、その姪で資産の相続人である令嬢、彼女のメイドとなる孤児の少女、さまざまな手引きをする詐欺師による騙し合い、駆け引きのドラマもスリリングなのだが、それぞれの性欲を赤裸々なまでに追求する演出に、妖しく引き込まれていく。その妖しさが陶酔感になっていく作りは、さすが名匠、『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督! というわけで、『アシュラ』とは別の本能を激しく刺激される『お嬢さん』は、「心をざわめかせる」という点で、2017年映画の最高峰になるだろう。
ちなみに『アシュラ』はR15+、『お嬢さん』はR18+。
さらに翌週の3/11には、日本の國村隼の怪演が韓国でも大きな話題を集めた、連続殺人を描くスリラーの『哭声/コクソン』が公開。5/13には、崩落したトンネルに閉じ込められた男の壮絶な運命を描く、ハ・ジョンウ主演の『トンネル』が公開。両作とも、韓国映画らしい「強度」がみなぎっている。
こうした強烈な作品が年々、日本人観客のメジャー層から敬遠される傾向にあるのは残念だが、2017年公開の韓国映画は、その傾向に「待った」をかける勢いが感じられる。それだけは間違いのない事実だ。
『アシュラ』
3月4日(土)ロードショー
配給:CJ Entertainment Japan
(c) 2016 CJ E&M Corporation, All Rights Reserved
『お嬢さん』
3月3日(金)ロードショー
配給:ファントム・フィルム
(c) 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED