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オスカー授賞式の日、ヒュー・ジャックマンは台北へ。新作『ローガン』は自信の完成度!

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『LOGAN/ローガン』の台北でのアジアプレミアに出席したヒュー・ジャックマン(写真:ロイター/アフロ)

第89回アカデミー賞授賞式が行われ、世界中の映画関係者が式の行方に一喜一憂していた日、ヒュー・ジャックマンは台湾の台北にいた。

最新作『LOGAN/ローガン』のアジアプレミアが、アカデミー賞と同日に行われたのだ(台北時間の2月27日)。台北のランドマークである高さ約500mの「台北101」。その真下に位置する広大な噴水広場に、長さ200m近くのレッドカーペットが敷かれ、周囲には黒山の人だかりができていた。カーペットの両側には、二重三重なんてものではない、“五重十重”、いや“三十重”くらいの人垣。しかも隣のビルの屋上や、立体駐車場の柱の隙間、歩道橋の上など、レッドカーペットが少しでも見える場所は、すべて人で埋め尽くされ、まさに立錐の余地がない状態。一般の人も自由に見られるとあって、朝早くから場所取りも行われており、カーペット横だけでも1000人。広場全体と周囲ではどう見ても2〜3万人、あるいはそれ以上の人数が集まっていたのではないか。

ビルの屋上にも見物客がぎっしり(撮影:筆者)
ビルの屋上にも見物客がぎっしり(撮影:筆者)

地元・台湾のセレブが次々とカーペットを歩いた後、メインゲストのヒュー・ジャックマンが登場。ゆっくりとカーペット横のファンと交流を楽しんだ後、舞台上で「ニーハオ、オーアイニー(こんには、愛してます)」と挨拶。司会者から台湾のローカルフードである「臭豆腐」について聞かれ、「16歳の男の子の部屋の匂いかな」とヒューらしい軽妙なコメントで盛り上げ、集まった人々は最後まで興奮が止まらない様子だった。

じつは同じようなイベントが、約1年前に同じ台北で行われていた。ライアン・レイノルズによる『デッドプール』のアジアプレミアである。当時、ライアンの知名度はヒュー・ジャックマンほどではなかったし、『デッドプール』自体も世界公開の前で、どれくらいヒットするのか未知数だった。むしろ、そのマニア向けな内容から大ヒットするかどうか……という、バクチ的な一作でもあった。ところがフタを開ければ、『デッドプール』は世界中で予想外のメガヒット。シリーズものではないヒーロー映画がなかなか当たらない日本でさえ、興収20億円という、まさかの成功を収めた。

その『デッドプール』と同じスタイルで行われた今回のアジアプレミア。吉兆となるかもしれない。作品のクオリティは証明されているからだ。

すでにベルリン国際映画祭などでお披露目済みの『ローガン』。とにかく評判が高く、映画批評サイトのロッテントマトでも95%の満足度という異例のハイスコアとなっている(2/28時点)。

ヒュー・ジャックマンの当たり役となった「X-MEN」シリーズのウルヴァリン。ヒューが同役を演じるのを「最後」と決めているのが、この『ローガン』。超人的な治癒能力と強力なカギ爪を武器に、無敵の戦いを繰り広げてきたウルヴァリン=ローガン(本名)も、歳を重ね、その能力がついに衰えを見せてきた時代を描く。恩師であるプロフェッサーXも老境を迎え、彼の介護をするローガン。社会からミュータントたちがほとんど姿を消したその時代(2029年)に、ローガンの能力を受け継ぐ少女が現れて……というストーリーだ。

その展開から察するように、作品全体のテイストはとことんハード。これまでの「X-MEN」シリーズとはまったく違う。ローガンと少女の関係が『レオン』などを思わせるし、何より、ローガンやプロフェサーXの切実な現在が胸を締めつけまくる。劇中では名作『シェーン』へオマージュが捧げられており、孤高な男の西部劇の印象も与える。作品全体が、とにかく“カッコいい”空気に満ちているのだ。「X-MEN」史上初のR指定ということで、これも『デッドプールと同じ。切実を極める運命と過激なアクションが異様なケミストリーを起こし、これまで観たことのないヒーロー映画に仕上がっている。「感動」という点では、「X-MEN」はもとより、歴代のアメコミ映画の中でもトップクラスに位置づけられるのは間違いない。

今週末の北米を皮切りに、世界各国で公開が始まる『LOGAN/ローガン』。日本では6月1日に公開となり、これも昨年の『デッドプール』とまったく同じ日である。

レッドカーペットは体調を崩して欠席したパトリック・スチュワートも翌日の会見に出席
レッドカーペットは体調を崩して欠席したパトリック・スチュワートも翌日の会見に出席
映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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