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元GMの岩渕健輔・男女7人制日本代表総監督が語るセブンズの今と未来

斉藤健仁スポーツライター
岩渕氏は2016年まで15人制と7人制の両方を統括するGMを務めた(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

リオデジャネイロ五輪の熱狂から早くも半年が経過した。

昨年まで15人制と7人制の両方の強化を総合的に管轄するラグビー日本代表のGM(ゼネラルマネージャー)として辣腕を振るい、今年から男女7人制ラグビー日本代表の総監督(Team Japan 2020男女7人制総監督)に就任した岩渕健輔氏は今、何を思うのか――。

◇「4位は10位と同じ」。7人制に専念した理由

2月末、男子の7人制日本代表合宿にその姿はあった。2019年ワールドカップに向けて男子の15人制日本代表の総監督に15人制日本代表のヘッドコーチであるジェイミー・ジョセフが就く一方で、2020年東京五輪を見据えて7人制ラグビーの強化に専念した岩渕氏は、その経緯をこう語る。

「そう(7人制日本代表の総監督)なることの方が良かった。オリンピックで(3位決定戦で)負けた、メダルを取れなかったことがどれだけ大きかったか実感しています。

メダルが取れず、4位というのは10位と同じ。ラグビー界の人は男子7人制日本代表がニュージーランドに勝ったこということのすごさがわかると思いますが、ラグビー界以外の人はわからない。もしメダル取っていれば変わったと思うのですが……。シビアにその差を痛感しました。だから中途半端ではなく、7人制ラグビー代表に専念することにしました」

だが、男子の7人制日本代表リオデジャネイロ五輪で4位に入賞したものの、取り巻く環境はあまり変わっていない。

◇「2歩進んで1歩下がる」。7人制が置かれた苦しい状況

昨年12月から始まった男子のワールドシリーズ(※世界の強豪16チームが出場。F1のように世界10ヶ所を転戦するサーキット大会)は、1月まで日本の15人制のシーズンと重なっているために、シーズン当初はオリンピックメンバーの選出はゼロ。準備も十分とは言えず、数名の経験者と若手で臨まざるをえなかった。

そのため、12月末のドバイ大会から15位タイ、15位タイ、15位タイと3大会連続最下位タイ。オリンピックメンバーの一人である坂井克行(豊田自動織機)が復帰したシドニー大会では11位タイに入った。

3月にアメリカとカナダで開催された大会は他のオリンピックメンバー2人も合流したが、それまで主力だった選手数名がケガや「諸事情」で参加できず、3月に行われたラスベガス、バンクーバー大会は、いずれも14位タイとなかなか上位に進出することができない。

また総合順位では12ポイントで、ロシアに6ポイント差の15位。ワールドシリーズはあと4大会残されているものの、このままでは再びコアチーム(※ワールドシリーズに優先的に参加できる15チーム)から自動降格してしまう危機を迎えている。もしコアチームから降格してしまうと、東京五輪に向けては強化には大きな痛手だ。

今シーズンから、東京五輪を見据えて、元ニュージーランド7人制代表のアシスタントコーチで、サニックス(現宗像サニックス)でプレー経験もあるダミアン・カラウナがヘッドコーチに就任したが、「昨年からメンバーを固定して戦っていたら、何度かワールドシリーズでカップトーナメント(ベスト8)にいけていたかもしれない」と言い、苦しい状況をこう吐露する。

「新しいメンバーが入ってきたら、また同じこと教えないといけません。企業がリリースしてくれないケースもケガの場合もある。2歩進んでも1歩下がるという状態が続いている。今は難しい状況に置かれていて、進歩がゆっくりだが、企業と大学と関係性を構築している段階です」(カラウナHC)

◇強化ははまったなし。協会プロ契約選手誕生も?

ワールドシリーズだけでなく、7人制ラグビーは2018年にアメリカのサンフランシスコでワールドカップが行われる予定であり、今秋のアジアシリーズがその予選を兼ねると見られている。もちろん2020年には東京五輪も開催される。強化はまったなし、だ。

ただ岩渕氏は手をこまねいているだけではない。リオデジャネイロ五輪前から7人制に専念する選手ができるような制度を作るために動いており、現在も各企業や大学チームと話し合いを重ねている最中だ。

コアスコッド(※7人制ラグビーに専念する選手)に関しても、岩渕氏は「(3月12日まで行われていた)バンクーバー大会の後、なるべく早く、7人制ラグビーに選任する選手を何人か発表したい」と語っていた。その意図はこうだ。

「橋野(皓介/キヤノン)も副島(亀里ララボウラティアナラ/コカ・コーラ)もセブンズをやりたいと言ってくれいて、嬉しいですね。選手は日本協会と直接契約することはあまり望んでいないですが、協会出向などいろんなパターンを模索し、そういった選手が出ることは決まっています。ただ、7人制ラグビーに専念するために協会プロ契約をしてもいいという選手が数人出てくると、その後も『自分もやろう』とういう選手が出てくるかもしれません」(岩渕氏)

また若手育成にも力を入れる。日本代表候補合宿は22名ほどで行っていたが、ワールドシリーズは13人で遠征する。残りの選手に若手を加えたチームを編成し、国内の大会に出場させる方向だ。すでに4月1~2日に行われる関西セブンズには、日本代表スコッドも参戦する。

「我々としては、若手主体の日本代表チームが各地域大会に出ることや、地方で合宿することによって7人制ラグビーの活性化や選手の発掘につながると考えています。システムや大会を変えることで、7人制の強化システムを変えていきたい」(岩渕GM)

◇「サンウルブズに人が多い」ことが課題。15人制との連携はこれから

岩渕氏は日本代表GMから7人制の総監督と立場が変わったこともあり、「(男子の)15人制と7人制の強化を分けることは難しい。一番、難しいのがサンウルブズに人が多いこと」と実感している。

「私がGMをやっているときはU20日本代表を入れても、コーチングの質という点から60人が限界だと思ってやっていましたし、エディー(・ジョーンズ前日本代表HC)を最大限に活かそうとしていました。

今はサンウルブズだけでも60人くらいいますし、もう少し大学生を入れてもいいかもしれない。(エディー・ジャパン当初の)我々もそうでしたが、最初はいろんな選手を見てみたいという気持ちもわかりますし、今後、メンバーを絞っていくと思いますが、2019年の強化とそれ以降の強化と全体的なところを考えてやっていかないといけないと思います」

正直言って、3月から15人制総監督を兼ねるジョセフHCの肝いりで開催されているNDS(ナショナルディベロップメントスコッド)合宿に参加しているサンウルブズや若手メンバーの中には、セブンズで勝負してほしいと思う選手が数名いる。ジョセフHCが「まだ(7人制のコーチと)話していない」と明言しているように、今後、もう少し連携が必要となろう。

◇女子7人制ラグビーは「いい状況の中で強化できる」

それでは岩渕氏は女子の7人制ラグビーに関しては、どう考えているのか。女子は男子と違い、リオデジャネイロ五輪では10位。世界の壁の前にまったく歯が立たなかった。また今シーズンはワールドシリーズのコアチームにも入ることができていない。

「女子の7人制ラグビーは、何もないところからのスタートなので、リオデジャネイロ五輪に向けて無理な強化をしてきたと思います。ただ、沖縄で行われた国際大会に若い選手が出場したように東京五輪までの4年は、試合を多くするなど、いろんな環境が整ってきたので、はるかにいい状況の中で強化できると思います。

ただ、(女子の)ワールドシリーズの入替戦、ワールドシリーズ。そして国内太陽生命太陽生命ウィメンズセブンズシリーズもありますし、さらに15人制日本代表も8月にアイルランドで行われるワールドカップに出場するので、選手のやりくりが結構大変です。7人制と15人制で土台のところの強化を上手く連携させて強化していきたいと考えています」(岩渕氏)

◇「東京五輪後にちゃんとしたシステムを作りたい」

岩渕氏はセブンズに専念したことでコーチングにも関わる時間が増えたという。「男子はディフェンスを見ていますし、女子はアタックを見ています。以前から楽しいと思っていましたが、たくさん仕事があったのでコーチングに時間を割けなかった。今はできるようになりましたね!」と声を弾ませた。

男女7人制日本代表の総監督という立場として、目標は東京五輪で男女ともにメダルを獲得することである。ただ岩渕氏は結果だけにこだわっていない。ラグビーはもちろん、2019年のワールドカップ、2020年の東京五輪で終わることはない。その後も続いていく。

「リオデジャネイロ五輪後にもっと一気に変えたかったのですが、東京五輪を見据えて、2020年にベストになる選手を探しています。15人制の方はエディーを通して世界を知って、そして2015年のワールドカップが終わってからはスーパーラグビーに参戦できるようになりましたが、7人制ラグビーでも東京五輪が終わった後にちゃんとしたシステムを作りたい」

名選手として15人制だけでなく7人制の日本代表でもプレーした岩渕氏。温かくも厳しい視線は、常に未来を向いている。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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