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アメリカでは消費者にどうやってムダ遣いをさせるのか

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
(写真:ロイター/アフロ)

ブラックフライデー狂想曲

米国ではブラックフライデーが終わり、小売各店はクリスマス商戦本番に入った。ブラックフライデーとは、米国の感謝祭翌日のことで、11月の第四金曜日を指す。つまり、ついこのあいだの金曜日だ。

ブラックフライデーというと、なんだか不吉な感じがするけれど、意味は各店舗が黒字=ブラックになることだ。多くの店舗が激安セールを繰り広げる。どこまでをクリスマス商戦とするかで統計はわかれるけれど、年間の3~5割の売上高がこの期間に依存している。

この期間にあわせて米国旅行するひともいる。なぜなら、この時期にあわせて各社とも大売り出しを開始するからだ。数年前にはアップルがiPad2を61ドル引きで販売し、シェアを大幅に伸ばした。ウォルマートが40インチ液晶テレビをなんと198ドルで販売したのも、この時期だ。また、例年とも各社の新商品発表が相次いでいる。

どういう感じかというと、アメリカの小売店各社がこのような立て札を立てる時期だ。

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このような立て札で客を惹きつける。具体的にどれくらい安くなるかというと、この立て札のように50%ほど安価になると謳うものが多い。あるいは、さらに30%オフというようなことも多い。これはノードストロームのキャンペーンだが、通常よりもっと(エクストラで)安価になると訴求している。

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しかも、じゅうぶん安価と思われているブランドもこの時期に値下げをする。下は"FOREVER21"で、激安販売をこの時期に開始している。

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また、マイクロソフトもXboxなどゲームソフトなどをこの時期に値下げする。

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意外なところではサマンサタバサなどのブランドも同様に値下げをしている。

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ビクトリアシークレットなども例外ではない。

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なお、アメリカでは、このようなカートが用意されている。

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このカートの高さは何を目的にしたものかというと、衣料品をそのままハンガーのようにかけられるようになっている。それによってお客はたくさんの商品を持ち運びでき、店側からしても、多く買ってもらえる、というわけだ。

ブラックフライデーと近年の特徴

また、このところの特徴として、レイアウェイの拡充がある。レイアウェイとは、要するに取り置きサービスのことだ。

消費者は頭金と手数料を払ったのち、90日程度をかけて分割払いすることで、クリスマス時に商品を受け取る。消費者にとってなんのメリットもなさそうなこの制度だけれど、米国では現金不足の消費者が多い。同国にはフードスタンプ受給者が4500万人以上いるとされる。フードスタンプとは生活保護制度のようなもので、スーパーで食料品等と交換できる金券のことだ。彼らからすると、分割払いにしてもプレゼントを買いたいわけだ。

彼ら層への消費意欲を焚きつけるために、かつて、トイザらスはレイアウェイ手数料を無料にし、ウォルマートも手数料還元のサービスをはじめた。

ところで、同国の消費者が商品を買う際に重視する店舗はどのようなところだろうか。「商品が安いこと」と「返品しやすいこと」だ。米国で驚くのは、ギフトレシートの存在だ。これは、買った店などの情報が記載されているものの、値段は書かれていない。プレゼントを渡すときに、このギフトカードを添える。そうすると、プレゼントをもらった側は、もしそのプレゼントが気に食わない場合は、そのギフトカードを使えば店に返品できる。服の色を替えることもできるし、違うものと交換したい場合はギフトカードをもらえる。

同時に不正返品も問題となっている。どこまでが不正返品かどうかは議論がわかれる。ただし、アメリカの大型小売店ではほとんど理由を訊かずに返品を受け付けてくれる。やろうと思えば、タグとレシートを保管しておけば、一度パーティーなどで着たものを返品できる。これまたデータによって異なるけれど、年間40億~140億ドルもの不正返品があるといわれているくらいだ。それに、もらったプレゼントであれば、思い入れもなく返品できるかもしれない。

これは小売店TARGETでの画像だが、返品のカウンターは日本では見られないほどスペースを割いている。

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プレゼントに領収書(ギフトレシート)を添付するとは、なんとミもフタもないことだろうか、と日本人としては思うけれど、合理的といえば合理的だ。最近は、米国ではずばりiTunesやAmazon等のギフトカードを送る比率が上がっている。現金同等物を送るとは、これまた合理的というべきか。

日本のクリスマス商戦

さて、日本に視点を移そう。華やかな米国クリスマス商戦とおなじく、各百貨店では年末商戦にむかって割引セールを繰り広げている。ただ、日本の場合、近年の特徴なのは、イエナカ消費が進んでいることだ。つまり、外食で高級ディナーを食べたり、繁華街に繰り出したりするのではなく、室内で楽しむ志向が拡大している。2011年の東日本大震災以降は、クリスマスは家族と過ごしたいとする人たちが増えている。不況とあわさって、家族の絆と節約志向が顕著だ(正確には、高級ホテル派とイエナカ派で二極化している)。

取材をしても百貨店の方がイエナカ消費を語る機会も増えたように思う。また、いまではコンビニを使っておせちも注文できる。実際に、おせち料理を百貨店ではなくコンビニエンスストアで注文するひとたちが増えている。日本におけるクリスマス商戦は、年末年始すべて引きこもってコンビニエンスストアさえあれば完結する。米国と違って、こまやかなサービスを発達させてきたコンビニエンスストア国家日本が、わたしたちに良い影響を与えるのか悪い影響を与えるのか、それはわからない。

なんにせよ、年末年始は、消費がもっともさかんになる時期だ。企業にとってはかきいれどきであり、と同時に、消費者としては散財にだけはご注意を。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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