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物流は世の中を便利にするが、物流業者は幸せになっていない

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
(写真:アフロ)

メディアを埋め尽くす物流関連のニュース

このところ物流関連サービスのニュースを目にしない日はない。

アマゾンが「プライムナウ」サービスを開始し、プライム会員であれば2時間以内に商品を届ける。楽天は商品数がまだすくないものの「楽びん!」サービスでは最短20分で届ける。きわめつけはセブン&アイ・ホールディングスで、「オムニセブン」で180万点もの商品のネット販売を開始した。

おなじく物流倉庫・物流施設関連のニュースも多い。

大和ハウスはこのネット通販ニーズにあわせて、千葉県の流山に巨大物流施設を建設するし、九州・福岡県の宇美町にも新設を決めた。ビックカメラも埼玉県の東松山市に建設する。東京湾岸では、スタートトゥデイやアマゾン、楽天などの物流施設がフル稼働している。高速道路のインター近くの土地が空けば、すぐさま物流業者が名乗りをあげるというし、関係者によると地価もあがっているという。また実感としてもマンションに帰宅すれば、どこかの宅配業者がネット通販の段ボールをかかえている光景をよく目にする。

物流関係の話をはじめるにあたり、この華やかな印象をまず述べたのは、その印象と現状のギャップをお伝えしたいためだ。

物流業の実態その1(利益率)

これだけ物流がさかんになれば、物流業者はかなり儲かっても良い。しかし、「どうも物流業者は搾取されているようだ」といった噂話を聞いたひともいるかもしれない。おなじく「トラック運転手不足」というニュースを思い出すかもしれない。

まずは運輸業等各社の決算状況を見てみよう。

法人企業統計で調べると、最新年度の2014年で、資本金1億円未満の業者の売上高営業利益率はわずか1.5%にすぎない。当期純利益率にいたっては1.2%となっている。この決算用語の厳密な意味がわからなかったとしても、薄利のイメージをもってもらえればいい。

これを資本金1億円以上の比較的大規模な業者で見てみると、たしかに売上高営業利益率は6.3%で、当期純利益率も3.8%と相対的に優れてはいる。ただし、資本金1億円以上の業者は流動比率が99.4%と100%を割っている危機的な状況にある。この流動比率というのは、1年以内に現金化できる資産を、1年以内に払うべき負債で割ったもので、値が大きいほど優れている。

物流業の実態その2(貨物輸送量)

なぜ、このように物流業者は憂き目に遭っているのだろうか。ここで私は、「どうも物流業者は搾取されているようだ」といった話はとりあげない。なぜなら、国内の物量そのものが減少し続けているからだ。これはネット通販がさかんないま、意外な事実かもしれない。

国内貨物輸送量は、平成8年(いまから約20年前)度の68億トン(http://www.mlit.go.jp/k-toukei/search/pdf/19/19199709x00000.pdf)をピークに減少しつづけ、現在では48億トンほどに落ち込んでいる(https://www.nittsu-soken.co.jp/report/view/pdf/view.pdf)。公共投資が減ってしまったために建築資材を運ばなくなった。そして、ものづくりが大幅に海外へ出て行った。日本のみならず先進国では、ITやソフト、サービスに経済を切り替えていった。

たとえばトラック業界は、総コストの4割を人件費がしめる、いわば労働集約型職場だ。こうなると売上の低下によって企業は固定費負担に苦しみ、そして利益率を低下させていく。現在も6万社を超えるトラック運送事業者は、”食うため”にギリギリの利益で市場に挑んでいる。

究極的に良いことか悪いことか判断は読者に委ねるものの、もっとも意味の大きい変化はやはりものづくりを大幅に海外に移管したことだ、と私は思う。アメリカは1980年代に大幅に製造業を海外シフトさせた。生産現場の人員のみならずミドルクラスのエンジニアも同時にいなくなった。アメリカでは生産回帰がいまごろになって叫ばれているが、ものづくりが帰還するのは容易ではない。

日本でも同様だ。「全国設備投資計画調査(大企業)一覧」(http://www.dbj.jp/investigate/equip/national/pdf_all/201508_plant.pdf)を見ても、2016年度(計画)の国内設備投資動向を見てもマイナスとなっており、残念ながら、これこそ生産回帰といえるレベルの動きは見られない。

昨今では新車販売も絶好調とはいえず、さらに中国経済の風邪によって、さらにふるわない。各社とも楽観的な売上見込みをもっていない。

物流業の実態その3(トラック運転手不足)

また、もうひとつの「トラック運転手不足」はどうだろうか。さきほどの物量の減少から考えるとわかりやすい。企業間取引の大物が減っていくものの、ネット通販のような小口がどんどん増えていく。小口はかならずしも儲からないわけではなかった。ただしいまでは同時に競争が激しい。そうすると、なかなか社員を増員できない。社員の取り扱い許容量以上に小口が増え、そして圧迫されていく。

昨年は一部で運賃値上げの動きがあった。しかし、一過性の値上げで充足できるほどでもない。

2008年9月に国土交通省は「輸送の安全向上のための優良な労働力(トラックドライバー)確保対策の検討」という報告書を発表した。この報告書には、現在直面している問題がほぼ網羅されている(http://www.mlit.go.jp/common/000022941.pdf)。田原総一朗さんの有名な映画「あらかじめ失われた恋人たちよ」を変形して「あらかじめ失われたトラック運転手たちよ」とでもいっておくべきか。

この報告書のなかから、該当箇所を引用してみよう。

「経済成長率が高い場合、輸送量の増加に伴い、必要ドライバー数が増加する一方で、ドライバーと他産業との賃金格差が拡大するためドライバー供給数は減少する。経済成長率が高くなれば、ドライバーの需給ギャップは拡大する結果となる。標準ケースで推移した場合、2015 年度では 14.1 万人のドライバー不足が発生するものと予測される」

出典:国土交通省「輸送の安全向上のための優良な労働力(トラックドライバー)確保対策の検討」

さらに東日本大震災復興や、このところでいえば2020年の東京オリンピックに向けて建設業がさかんに人員を確保している。私が解説したとおり、小口などの運ぶものは増えても、適正な売上をあげられなかったら、ドライバーの賃金は増えないため、その総数が減少していく、というわけだ。実際にトラックドライバーの年収は1997年ごろをピークに現在では2割ほど減少している。

皮肉に聞こえるかもしれないが、国土交通省が予想する世界が到来したのだった。

また、参考までに付け加えると、この事態には2007年の道路交通法の改正が加担した側面も大きい。これを機に普通免許では車種が限定され、中型免許が生まれた。これによって、若年層の社会人たちがトラック運転手になりづらくなった。もちろん立法の意図はよくわかる。好意的に解釈すれば、1990年代から続く物流自由化の競争に歯止めをかける目的があった。ただ、大型免許取得が難しくなり、人手不足が深刻化した側面もやはりあった。

たまにニュースで高齢者ドライバーの事故がいくつも報じられる。しかし業界からすると、これは人手不足ゆえにやむなき側面がある。実際に、高齢運転手を雇用している事業所は46%と増加傾向にある(「一般社団法人 日本自動車工業会」が公開している「2014年度小型・軽トラック市場動向調査」(http://www.jama.or.jp/lib/invest_analysis/pdf/2014LightTrucks.pdf)。

女性の活用をねらう企業はある。ただ、女性ドライバーを活用している事業所はまだ13%にすぎない。採用しない企業の言い分として「女性用の更衣室やトイレなど、施設面での改善が必要になる」「荷物の積み下ろしなど、荷役作業が困難である」がある。もちろん倫理的に女性差別だと批判しても良いだろうが、現実的に零細企業を責め立てても改善は難しい。

物流の課題解決に向けた各社の取り組み~海外進出、引取BOXにドローンまで

ミもフタもない話をするならば、物流の付加価値を消費者が再認識し高いコストを支払えば状況は改善する。あるいは、物流業者に物流を依頼する企業が、高いコストを支払ってあげればいい。または国内以外で売上を確保し、全社トータルで補うことだ。

実際に物流各社はアジアなどに進出し、日本での売上減少を補填しようとしている。もっとも有名なのはヤマトホールディングスで、沖縄に企業間物流拠点を設立した。「サザンゲート」と呼ぶアジアへの物流拠点からは、アジア各国に向けて翌日配送に取り組む。グローバル化していく企業活動をサポートするビジネスだ。

また国内配送において、これ以上コストをアップさせない取り組みとして、受け取りポストを設置する取り組みがある。楽天は「楽天BOX」を全国に置き、購入商品をそこで引き取ってもらう。これによって再配達コストはなくなるし、一人暮らしの女性などの男性配達員に家のなかに入ってほしくないといったニーズにも応えられる。

また、アマゾンとローソンが提携したように、コンビニ取り置きサービスも拡充している。24時間開店しているコンビニの活用はかなり大きい。アマゾンは大型の郵便受けを製品化もしている。

参考までに述べると再配達削減は、環境にも優しい。宅配便のトラックの移動のうち、実に25%もの走行距離分は再配達に費やされている。時間や人件費、燃料費もそうだが、CO2も削減できる。

くわえて、ドローンの活用もありうるかもしれない。実際に千葉市は国家戦略特区に指定され、ドローン実験が認められた。これから宅配サービスなどの実証実験が進む予定だ。米国が先行するこの技術で日本も巻き返すかもしれない。ただ、「ドローンの活用もありうるかもしれない」と書いたのは、一軒家の庭先渡しの米国と異なり、人口密集の日本ではもう一工夫必要と思われるからだ。ドローンだけでさすがにマンションや集合住宅のポストに配達できるとは思わない。現実的にはマンションなどの場合は、屋上にまとめて配達することになるだろう。そして、屋上から管理人か誰かが人力で下に運ぶ、あるいはゴンドラのようなもので運ぶ方式になるだろう。もちろんドローン配送が成立すれば素晴らしいものの、現実化に向けてはさらに進化が必要だと思われる。

ただ、悠長なことはいっていられない。

物流の課題解決に向けた各社の取り組み~他企業との垣根をこえた取り組みや、御用聞きサービスなど新分野での価値創造が望まれる

儲からないなどと書いたものの、ネット通販を中心とした物量は今後も拡大していくだろう。本家・米国ではついに2015年、年末商戦においてはネットの買い物客のほうがリアル店舗を上回った。米アマゾンでは物流施設での臨時雇用が10万人に達し、仕分けロボットも増加した。ただし、少なからぬ業者は対応できず、年末商戦に呻吟した。

これまで書いてきた物流問題に絶対的な解決策はない。ただ、個人的な感想では、物流業者のみに解決を依頼することはできず、多方面からの援助が必要となってくるだろう。非常にいいづらいが、消費者が配送費の値上げを受容することも必要だろう。

あるいはメーカー側も梱包を最適化するなどといった工夫が考えられるだろう。実際にイケアではフラットパックとよばれる段ボールにぴったり収まる家具が良いとされる。そしてそのフラットパックは運送用パレットにあうよう設計されている。これによって配送効率が格段に向上し、費用のロスもない。

モノを右から左に流す。かつて物流は付加価値を生まない代名詞のような存在だった。しかし、昨今、企業が物流スピード等のサービスを差別化ポイントとして活用している。それに、もっといえば、モノを流す以上の取り組みでさらに価値を創るべきだろう。

一部の宅配業者はコンビニと組んで、各家庭に商品を届けると同時に御用聞きをはじめた。買い物難民(過疎地等で自動車を有していないひとたち)のための支援サービスも拡充が求められる。また、物流施設内で製品の組み立て初期設定、修理、メンテナンスなど、いわゆる流通加工も開始した。

単に速く早くモノを届けるだけではない、多面的な役割が期待される。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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