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リアル店舗がネットに対抗する切り札”shop and scan”という潮流~そしてアマゾンの対抗

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
(写真:アフロ)

「レジのスピードがあがること」イコール「消費者がたくさん買う」時代

このところ、米国の小売店をとりあげた記事で”shop and scan”がよく目につきます。これは、ネット通販に対抗するためにリアル店舗がしかけている手法です。”shop and scan”とはいっても、難しいことではありません。単にスーパーなどのセルフレジを想像してもらえばいいでしょう。

An overwhelming majority (88 percent) of U.S. adults want their store checkout experience to be faster, according to a study conducted online by Harris Poll and commissioned by Digimarc Corporation (NASDAQ: DMRC) this month.

出典:Digimarc Survey

上記のとおり、米国での調査によると、88%の消費者はレジのスピードをあげてほしいと願っています。

In particular, a combined 50 percent name slow checkout speeds and long lines as their top grievances.

出典:Digimarc Survey

そして約半数は不満のトップとしてレジの行列をあげています。かつ同時に、消費者はセルフレジをまだ難しいとも感じているのですね。正直に申せば、リアル店舗がネットに勝つために考えているのがレジのスピードアップと聞いて、私はそのレベルに目眩がしました。しかし、考えてみるに、たしかにレジのスピードがアップすれば、リアル店舗に行ってみようと思うかもしれません。

商品にRFID(小型センサー)を装着して通過するだけで購入額計算するシステムは試験的に導入されていますし、日本ではファーストリテイリングが即時精算を可能にしようとしています

危機感をもつべきは、やはりスマホの存在です。おなじく米国の調査では、スマートフォンを持つひとびとは一日にスマホの画面を平均45回も確認しています。デジタルに買い物客が取られていくなか、利便性向上の観点からもレジのスピードアップは重要です。

小売業から情報販売業への転換

もっとも「ネットVS小売店」という二項対立は古い構図なのでしょう。

米国で取り組みが始まっているのは、こういった”shop and scan”の発展形です。そのスーパーでの支払いは、スマートフォン上にダウンロードしたアプリと連携させて、あとでまとめて決済ができるようにしています。

さらに、スマートフォンと連携していれば、個人情報とのリンクもできます。

これまで伝統的なスーパーでは、顔見知りのお客はいたとしても、その個人情報を活用できていませんでした。そのデータをビジネスに使う発想もありませんでした。

しかし、”shop and scan”でスマホを使わせることができれば、個人化された安売り情報なども提示できます。また、購入食品のカロリーなどを計算すれば、健康志向の食品を提示するなどの展開も見込めます。

現在、蔦屋書店を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブは、書籍などの販売データを活用して、コンサルティングビジネスをはじめています。また、商品企画にも使えます。本業ではなかなか利益を上げられなかった業態であっても、そのように莫大な購入データという宝を有していれば、今後さまざまな活用も可能です。

アマゾンがしかける補充手間レス社会

小売業がいくつかの活路を見出そうとしているなか、いっぽうでネット専業の各社はどのような取り組みをしているのでしょうか。

アマゾンは瞠目すべきサービスをはじめました。”Amazon Dash Replenishment Service”です。前半部分の”Amazon Dash”は新しい言葉ではありません。リモコンのようなもので、バーコードをスキャンすればすぐに注文できるサービスで以前より開始しています。ただ、これだけでも革新的なサービスで、その後Dashボタンを押せば、ただちに注文できるようになりました。

ただ、この後半部分の” Replenishment Service”は注目に値します。

そもそもReplenishmentとは、補充する意味です。アマゾンは、この” Replenishment Service”を拡大するために協力会社を大幅に増やしました。協力会社にとっても、それは商品の付加価値となります。

このReplenishment機能をつければ、アマゾンがあとは販売や配送をやってくれます。アマゾンはAPIを提供し、取りつけられた商品は自律的に赤外センサーやその他の機能を活用し、日用品の使用量を測定します。たとえばペットフードならば、その残高とペットが食する量を計算し、あらかじめ設定されたルーチンにしたがってお客の代わりにペットフードを注文してくれるわけです。

たとえばゼネラル・エレクトリックは洗濯機を販売していますが、ユーザーの使用状況と注入された洗剤から計算して、洗剤を届けるサービスを想定しています。サムスンはレーザープリンターと連携することで、トナー使用量を監視します。想像のとおり、ユーザーの印刷量から計算して、トナー切れの心配をなくすわけです。また他社は、ハンドソープやボディーソープの自動補充なども想定しているようです。

この自動発注が人間の自由につながるのかどうか。それだけはまだわかりません。

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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