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アジアからの部材調達で知るべき「違い」

坂口孝則コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家
アジアからの調達で知られていない「秘密」がある(写真:アフロ)

現在、日用品業界企業におけるアジア調達の変化と取り組みが喧伝されている。そこで、某有名企業の調達マネージャーに、アジア調達の現状と課題を聞いた(聞き手・坂口孝則)。

初出・無料小冊子「The調達2016」より

――現在、アジア調達の環境がかわっていますよね。新たな調達アプローチについて教えてください。

今アジアの調達環境は大きく変化している。市場ニーズ、競合、サプライヤーそして自社の方針など変化しないものはない。

市場ニーズは国単位で大きく異なるわけではない。むしろ同じ国の中でもニーズが大きく異なる場合が多い。経済発展が著しいアジア諸国において、各国の都市部と農村部ではライフスタイルやニーズが大きく異なる。すなわち「この国はこういう商品が望まれる」との考えでの商品開発・販売ではなく、「このお客様にはこのような商品が望まれる」ような、より小さな単位での商品提供が必要になっている。

マーケティングでは【ペルソナマーケティング】といわれる顧客の個によりそう手法が取られ始めており、より小さな単位での商品提供に発展する可能性がある。さらにお客様のライフスタイルの変化が激しく、都市部への人口流入や農村の発展などと重なりお客様は商品を「買い上がる」傾向にある。一方自社の提供している商品は競合などの参入により従来まで差別化・プレミアム品であったものが陳腐化・汎用化する。

そのため新興国であればあるほど、「ローコストローエンド」資材の調達に平行して「ハイエンド」資材の開発・調達を早いサイクルでまわす必要がある。私が所属する日用品業界では取り扱いの単価は安いが量が多い調達品が殆どであるため、現地生産国での調達が基本である。

しかしながらハイエンド資材を現地で調達するためには現地の有力サプライヤーと手を組み開発を推進する必要があり取引コストが大きくかかる。ハイエンドの技術が早晩汎用化し汎用商品へ展開拡大され、新たなるハイエンド資材の開発・調達が求められる。取引コストを最小化できる現地調達先を見つける、または創るが、激変するアジアでの必要な購買活動である。私は調達力格差が自社商品の市場ニーズへの適合性を決めると考えている。

競合の活動も大きく変化している。欧米のグローバル競合のアジア注力及び各国ローカル競合の成長により、競争環境が激化している。特に欧米グローバル競合は従来のグローバル画一的な調達アプローチからアジア市場に適合した調達アプローチに変化してきている。

――どのような変化ですか?

その方法は大きく2つある。一つはキーとなるサプライヤーの所在国に該当資材のカテゴリーマネージャーを置き、そこから全世界をグリップするサプライヤーリレーションシップマネジメントを重視する方法、もう一つは各国の調達責任者に権限委譲し徹底的な分散購買を志向する方法である。

前者はどちらかというとサプライヤーの力を引き出し、グローバル市場での活用が主眼に対し、後者は現地サプライヤーのスピーディーな現地最適活用に主眼においている。市場ニーズの細分化にともない近年は後者のやり方が成果を上げつつあるが、リソースや展開性の面もありどちらが優れているのかは一概には言えない。

一方、各国ローカル競合も調達方式を変化させている。例えば先の欧米グローバル競合からキーマンを引き抜き調達責任者におき、そのキーマンの持つスキルだけでなくサプライヤーとの関係を自社に取り込む方法や、数社が共同調達体制を引きその中で最も調達力のある企業が代表して資材を調達する方法などである。

特に市場成長が著しく需給がタイトになった局面では必然的に後者のような形態が多い。概してローカル競合はトライアンドエラーで物事を進めるため躍動感がありスピード感に勝る傾向がある。このような中、総合規模ではグローバルにかなわず、スピードではローカルに勝てないリージョナルな日系メーカーはどのような調達をすべきであろうか。

私は日本流の長期取引に基づいた関係構築が大きな鍵だと考えている。環境変化の激しい新興国だからこそ、サプライヤーは長期安定取引を望んでいる。じっくりとパートナーを見極め、短期ではなく長期で取り組み方針を共有し、ともに成長していく日本流の調達スタイルは新興国でも十分に通用するはずである。

――新興国サプライヤーとの接し方について、アドバイスいただけますでしょうか。

サプライヤーも大きく変化している。従来新興国のローカルサプライヤーは「安かろう、悪かろう」と色眼鏡による判断が多かった。しかしここ数年の新興国サプライヤーの成長は著しく、われわれ日用品業界においては、新興国の技術が成熟国の技術よりも安価で優れているケースがみられはじめている。

その理由は2点ある。1点目は、新興国サプライヤーは最新の設備を導入している点である。例えば日本のサプライヤーの導入した設備は十年前、もしくはそれ以上前のも珍しくなく、丁寧にメンテナンスされているが最新設備に比べるとどうしても見劣りする。それに比べて新興国サプライヤーの導入した最新設備は生産速度も速く、軽量化などのコスト競争力を有する設備であり、品質・コストの面で成熟国よりも優れている場合がある。

このようにハード面の優位性に加えソフト面での改善も見られる場合がある。私は以前トルコでサプライヤーを訪問したときに、最新設備が複数台ならび、従業員は全員生産現場に入るときには手先消毒・戴帽し、通路ゾーン・生産ゾーン・物置ゾーンなどがラインテープで区分されているのをみて、日本のものづくりの優位性が揺らいでいると感じた。

そしてもう1点は圧倒的に安い加工費による付加価値付与ができる点である。われわれ日用品業界では二次加工を実施すると割高コストが常識である。しかしながら新興国サプライヤーは安い労働力などを武器に、低コストな加工費で二次加工による付加価値品の生産を実施できる。その結果成熟国では考えられなかった二次加工品を活用した製品・資材のトレンドが新興国で生み出される現象が起きている。

これらの新興国のサプライヤーの変化に対し、グローバル競合の動きが加速している。大きくリバースイノベーションとローカルサプライヤーのグローバル化促進である。リバースイノベーションについては、例えば二次加工品を、新興国内で使用した後に、オーストラリアなどでテスト使用し、問題なければ新興国発の技術をアメリカ・ヨーロッパの本国に展開する動きである。そしてローカルサプライヤーのグローバル化は、新興国でローカルサプライヤーと取引をする中で可能性があると感じた場合、新興国のサプライヤーをグローバルに誘致する動きである。

例えば中国のサプライヤーをエジプトなどに誘致するなど、欧米サプライヤーが二の足を踏む国へ新興国のローカルサプライヤーを誘致する動きである。このようにサプライヤーのレベルが上がり業界構図が変化している中で、私たちはどのような取り組みをすべきであろうか。

私は、取り組むべき相手信頼してトライ&エラーをしながらともに成長する活動が重要であると考える。

そのためには社内関係者との共有や調整が必要不可欠であり、それを個人技ではなく仕組みでサプライヤー育成の活動を共有・承認できるようにする必要があると考える。具体的には定期的な購買戦略の共有会や開発設計部門、品質管理部門、製造部門とのテーマの握り及びその進捗確認レビューなどが必要である。

――為替については?

海外での活動が多くなるにつれ為替の課題が発生する場合がある。特に新興国は政治・経済が不安定なため為替の変動リスクが高い。取引条件交渉により一時的に自社に有利な条件を引き出せるかもしれないが、長期的にみると両社にとって公平な取引条件が求められる。

複数国で取引のあるグローバルサプライヤーであれば基軸通貨を決めたり、複数国の通貨を使用したりでリスクヘッジは可能であるが、単一国の取引で通貨安などの影響の大きいサプライヤーは注意が必要である。サプライヤーのキャッシュフロー及び原料・資材の輸出入フローに注意をして、為替が○%変動したときには取引条件を見直すなどの配慮が必要である。

私の所属している日用品業界では、収入は主に現地通貨となる。そのため、現地通貨での支払いが理想的であるが、新興国のサプライヤーは資材の原料を海外から輸入しているケースも多く取引通貨の取り決めは非常に大きな課題となる場合が多い。

過去、30社ほどに為替リスクに対する対応についてアンケートを実施した。結果は会社のフェーズにより取り組み方が異なっていた。初期(自国内取引中心)の場合は為替についての対応をする必要性は大きくなく、非対応の会社が多いが、会社の規模が大きくなり複数国での調達活動が行われるようになると為替予約などの対応を実施している会社が増える。

その後会社規模が拡大しグローバル化が進むと資材の購入と自社製品の複数国販売により為替が相殺されるため為替予約をやめるケースが見られた。絶対的な答えは無いがビジネスのグローバル化が進むにつれて為替対応は避けては通れない道である。

――これから調達人員が考えるべきこととは?

このように大きな環境変化が起こる中での購買活動において、一番大きな課題は自部門内にあると考えている。

はじめに人についてであるが、環境・自社は刻一刻と変化するが人間はそう簡単に変わらない。明日から英語がペラペラになったり、外国人の価値観を理解したりはできない。

自分が入社・配属になったときと状況は変わり人材に求められている要件の変化を自覚して変化が始まる。そのためにはまず自ら外の世界(海外・社外)と接触し受ける刺激が重要だと考える。

しかしただ海外に行けば良いわけではない。

できれば1人で海外へ赴き、サプライヤーのリサーチ、訪問、交渉などを自ら1人で完結が自覚と成長を促す場合が多い。私が常に口にしているが、「今が一番若くて時間がある」のである。

会社は常に成長を目指し、会社が成長するにつれ人はどんどん不足し、業務量が増える。一番若くて時間がある今こそ、自らの成長に投資する時期と自覚し、変わる覚悟を持ってもらいたいと思っている。

また仕組みについては、グローバルでの購買プロセスの制定や基準の決定が必要であると考える。日本流のやり方、今実施している方法をベースでもかまわないので、まずはプロセスを可視化し文章化する必要がある。

その後それを海外での活動の指針とし、絶えずフィードバックして仕組みや基準を進化させていく。形式的な仕組みは定着せず意味が無い。部門長などプロセスオーナーが都度確認・レビューなどに参画し仕組みの定着が必要である。仕組みと基準が定着していけば海外で活動するメンバーと価値観が共有化されていく。価値観が共有されれば、方向性の大きなずれはなくなり海外での活動を任せやすくなる。価値観の共有により各国固有の課題や変化に対してスピード感をもった対応が可能になると考える。

以上、私がグローバル化にチャレンジする中で感じている環境変化とその対応だ。

この10年間で変化は益々大きく速くなってきており、大きい企業ではなく変化を機敏に察知し対応できる企業が生き残る時代になっている。当業界の考えに偏り非常に特殊な部分もあるかと思うが、皆様の参考になれば幸いである。

初出・無料小冊子「The調達2016」より

インタビュイー:深津建一(ふかつ・けんいち)

コメンテーター。調達コンサル、サプライチェーン講師、講演家

テレビ・ラジオコメンテーター(レギュラーは日テレ「スッキリ!!」等)。大学卒業後、電機メーカー、自動車メーカーで調達・購買業務、原価企画に従事。その後、コンサルタントとしてサプライチェーン革新や小売業改革などに携わる。現在は未来調達研究所株式会社取締役。調達・購買業務コンサルタント、サプライチェーン学講師、講演家。製品原価・コスト分野の専門家。「ほんとうの調達・購買・資材理論」主宰。『調達・購買の教科書』(日刊工業新聞社)、『調達力・購買力の基礎を身につける本』(日刊工業新聞社)、『牛丼一杯の儲けは9円』(幻冬舎新書)、『モチベーションで仕事はできない』(ベスト新書)など著書27作

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